本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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十五皿目 正論論破愛情論

56(sideタロー)

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「はぁ。どうせ消える身なのに、手間をかけさせないでください」

 ──っ、取られちゃった……っ!

 サァ、と青ざめる。左王腕様が取り上げたお人形さんたちを持って私に背を向けて、部屋の外へ歩き出した。

「や、やだ! やだー! かえして! 私のおとうさんとぱぱ、かえして! 私の!」

 私は一生懸命鳥かごに飛びついて囀ったけれど、左王腕様は振り返らない。

 ──やだ、やだ、私の家族!
 今度は離さない。私が見つけた家族、私の家族なのに……!

 けれどどんなに叫んでも、左王腕様は止まってくれなくて、外へ行ってしまった。

「ぁぅ……あぅぅ……っ」

 私はもうどうしようもなくて、魔界にも帰れないのに最後の希望も取り上げられて、膝を抱いて丸くなる。

 寂しくて情けなくて顔があげられない。

 喚くだけで、なにもできなかったんだもん。家族なのに、守れなかった。

 きっと捨てられちゃう。

 そう思うと、勝手に目から大粒の涙がとめどなく溢れ出してしまった。
 次から次へと零れる涙を止められなくて、しゃくりあげて泣いてしまう。

「ぅぇぇえ……っ」
『──ゴソクジョサマ、ナクコトナイ。ナーイ』
「ひぅっ……!?」

 そうして泣いていると、私の背中から声が聞こえた。

 びっくりして涙が一瞬止まってしまう。その声は知っている声だったけれど、ちょっぴり違う響き方をしていたからだ。

 慌ててキョロキョロと見回すと、その声の主はひょこりと顔を出して、私のひざの上にぴょんと乗った。

 小さくて黒い毛皮に覆われた体に、黒い翼。丸くて灰色の目はくりんとかわいいけれど、なにを考えているのかわからない。

 モフモフのコウモリさんは、私の膝をつついて小声でお話をする。

『オレ、ゼオ。ノ、メダマ。ツイテキタ。ダイジョブ、ダヨ?』
「! ぜおさま?」

 コミカルに片手をあげたコウモリさんは、私の知っている声の主のひとかけらだと説明して、『ウン』と頷いた。

 私は一人じゃなくなって、涙をこすって泣き止む。嬉しい。やった! でも、どうして?

 そう尋ねると、コウモリさんは『ソウイウケイカク』と言って丸くなる。

 けいかく、計画? なんのかなぁ。

 わかんないけどとにかくハッピー。ここから出て、シャルとまおちゃんのお人形さんを取り戻さなきゃ。

 仲間ができて意気込んだ私はむんと拳を握り、ゼオ様なコウモリさんをお人形さんの代わりにぎゅっと抱きしめる。

『ムギュ。キケン、カナ』
「? あのね、私、ここから出たい。ぜおさまなこうもりさん……どうしたらいいか、いっしょに考えてくれますか?」
『ダメ。デルノハ、ダメ。マオウサマ、ケイカクチュウ』
「えっ……?」

 私の腕の中でモソモソとお話するコウモリさんの言葉に首をかしげた途端──部屋の入口がブウン、と音をたてて開いた。

 ──だ、だめ、また左王腕様がきちゃったんだ……!

 そう思った私は慌ててコウモリさんを後ろ手に隠して、開いた入口を戦々恐々と見つめる。

 けれどそこから覗いたのは、予想外のモノで。

 ひょこ。
「!」
 ひょこひょこ。

 それは奪われたはずの、お人形さんだった。




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