855 / 901
十五皿目 正論論破愛情論
55(sideタロー)
しおりを挟む考えれば考えるほど後悔がたくさん見つかって、私は泣きながら二人のお人形さんに、謝り続ける。
──そうしていると、不意に壁の一つがフワリと消えて、誰かが私に近づいてきた。
私は泣くのをやめて、顔を上げる。
もしかして、誰かが助けにきてくれたのかなって、バカな期待をしたからだ。
けれどそこにいたのは、無感情に私を見下ろす、左王腕様だった。
「ジファーはちゃんと仕事をしたみたいですね」
真っ白い髪のお人形さんみたいな人。昔、卵の私を逃がしてくれた人が、一番冷たいと言っていた。
「はっ……ぁ、あぅ……っ」
「ふむ……供物も涙を流すのか。情緒が育ったなら、とても不幸なことです。魔族は残酷だな」
私を見る目は、とても冷たかった。
ガタガタと震えて鳥かごのすみっこに後ずさる。本当に精霊界に帰ってきたんだ、と実感して、恐ろしい。この人は、そういう人。
「……っ……」
だけど私には、もっともっと、大きな思いが喉の奥までポコポコと湧き上がってきた。
恐ろしさと不安と絶望の中で、それよりとっても大きな思い。
左王腕様は逃げる私の手にあるシャルとまおちゃんのお人形さんに気づいて、怖い顔で舌打ちをする。私はそれが怖くて、小さくなってしまう。
左王腕様は鳥かごの中に腕を差し込んで、私が抱き抱えるお人形さんを掴んだ。
「あ……っ! ぅ、うぅ……っ」
やめて、やめて。持っていかないで。私の家族なの。私の両親なの。お願い、お願い。
「だめだ、渡しなさい。こんなもの、供物には必要ないでしょう? ジズ」
「っち、ちが……っ」
「なにが違うのですか?」
奪われないように咄嗟に強く掴むと、左王腕様は忌々しそうにお人形さんを睨みつけて、怖い言い方で引っ張る。
──なにが違う?
そう尋ねられた私は、頭の中の後悔がとめどなく押し寄せて、ぐるぐるとごちゃまぜになって、なにもかもが元の形がわからなくなってしまう。
けれどその中から変わらなかったものを集めて、拾って、抱きしめて。
「なに、ち……ちがう……っ私、私の名前、じずじゃないよ、くもつじゃない……」
「は?」
「私は、りてぃたろと、ないるごーん……──たろーだよ……っ!」
キッ、と左王腕様を涙で溺れた目で一生懸命睨んで、私は大きな声で喉元まで湧き上がっていた思いを絞り出した。
そうだ、そうだよ。
私は、〝家族と生きた私が不幸だ〟って言われた、今、とっても怒っていたんだね。
シャルもまおちゃんも、ゆんちゃんもガオガオも、宰相さんもガドくんも、にゃんにゃんもゼオ様も、みんなと家族になったこと……私、不幸じゃない。
「なにを言っているんですか。あなたはジズで、神霊様の供物でしょう? あなたに親はいません。これを離しなさい」
「あー! あー! あー! 聞こえないっ! 聞こえないっ! しゃるもまおちゃんも、私のかぞく、離してっ、離してっ」
「っく、うるさいですね……っ」
「聞こえないもんっ、聞こえないもんっ!」
40
お気に入りに追加
2,690
あなたにおすすめの小説






イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる