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十五皿目 正論論破愛情論
55(sideタロー)
しおりを挟む考えれば考えるほど後悔がたくさん見つかって、私は泣きながら二人のお人形さんに、謝り続ける。
──そうしていると、不意に壁の一つがフワリと消えて、誰かが私に近づいてきた。
私は泣くのをやめて、顔を上げる。
もしかして、誰かが助けにきてくれたのかなって、バカな期待をしたからだ。
けれどそこにいたのは、無感情に私を見下ろす、左王腕様だった。
「ジファーはちゃんと仕事をしたみたいですね」
真っ白い髪のお人形さんみたいな人。昔、卵の私を逃がしてくれた人が、一番冷たいと言っていた。
「はっ……ぁ、あぅ……っ」
「ふむ……供物も涙を流すのか。情緒が育ったなら、とても不幸なことです。魔族は残酷だな」
私を見る目は、とても冷たかった。
ガタガタと震えて鳥かごのすみっこに後ずさる。本当に精霊界に帰ってきたんだ、と実感して、恐ろしい。この人は、そういう人。
「……っ……」
だけど私には、もっともっと、大きな思いが喉の奥までポコポコと湧き上がってきた。
恐ろしさと不安と絶望の中で、それよりとっても大きな思い。
左王腕様は逃げる私の手にあるシャルとまおちゃんのお人形さんに気づいて、怖い顔で舌打ちをする。私はそれが怖くて、小さくなってしまう。
左王腕様は鳥かごの中に腕を差し込んで、私が抱き抱えるお人形さんを掴んだ。
「あ……っ! ぅ、うぅ……っ」
やめて、やめて。持っていかないで。私の家族なの。私の両親なの。お願い、お願い。
「だめだ、渡しなさい。こんなもの、供物には必要ないでしょう? ジズ」
「っち、ちが……っ」
「なにが違うのですか?」
奪われないように咄嗟に強く掴むと、左王腕様は忌々しそうにお人形さんを睨みつけて、怖い言い方で引っ張る。
──なにが違う?
そう尋ねられた私は、頭の中の後悔がとめどなく押し寄せて、ぐるぐるとごちゃまぜになって、なにもかもが元の形がわからなくなってしまう。
けれどその中から変わらなかったものを集めて、拾って、抱きしめて。
「なに、ち……ちがう……っ私、私の名前、じずじゃないよ、くもつじゃない……」
「は?」
「私は、りてぃたろと、ないるごーん……──たろーだよ……っ!」
キッ、と左王腕様を涙で溺れた目で一生懸命睨んで、私は大きな声で喉元まで湧き上がっていた思いを絞り出した。
そうだ、そうだよ。
私は、〝家族と生きた私が不幸だ〟って言われた、今、とっても怒っていたんだね。
シャルもまおちゃんも、ゆんちゃんもガオガオも、宰相さんもガドくんも、にゃんにゃんもゼオ様も、みんなと家族になったこと……私、不幸じゃない。
「なにを言っているんですか。あなたはジズで、神霊様の供物でしょう? あなたに親はいません。これを離しなさい」
「あー! あー! あー! 聞こえないっ! 聞こえないっ! しゃるもまおちゃんも、私のかぞく、離してっ、離してっ」
「っく、うるさいですね……っ」
「聞こえないもんっ、聞こえないもんっ!」
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