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十五皿目 正論論破愛情論

54(sideタロー)

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 右王腕様に攫われた後、私は気がついたら、ベショッ、と吊られた鳥かごの中に落ちていた。

 よくわからないけれど、空間を作れる右王腕様だから、私を空間を使って鳥かごに送ることもできると思う。

 ここは、どこだろう。
 キョロキョロと周囲を見てみるけれど、鳥かご以外はなにもなくて、よくわからない。

 だけど、この冷たさと静けさには、覚えがあるような気がした。

「ふっ……ぅ、にゃんにゃ……」

 私は傷のない体でしゃるとまおちゃんのお人形さんを抱き抱え、小さくなる。

 にゃんにゃんは、傷だらけだった。
 私を守って、たくさん傷だらけだった。

 私には見えていた右王腕様の姿が見えないにゃんにゃんは、それでも一生懸命私を守ってくれたのに。

 私は怖くて、助けてって言えなくて、行きたくないって言えなくて。
 にゃんにゃんに隠れて私に近づこうとしていることを、教えてあげられなかった。

 大切なことを教えてくれた友達なのに、私は……なにもできなかった。

「うっ……ひっく……ごめ、ごめんなさい……っ」

 ポロポロと涙が零れて、目元を擦っても擦っても、止まらない。

 全部、私が黙っていたからだ。
 みんなと家族でいるのが幸せで、私は、ワガママを押し通した。

 親という人が、私にはいなかったから。

 シャルが私をあっためてくれて、まおちゃんが私をころころしてくれて、勝手に、二人が私の親になってくれたらって、思ったから。

 私は〝ジズ〟じゃなくて──……〝タロー〟で、いたくなった。


『さぁ、口を開けて。美味しいか? ふふふ、お前のために作ったんだ。今日もタローが笑顔で、シャルは幸せだぞ』

『積み木はこうだ。いいか? 外壁を強固に、んん、ガッシン! ってしねぇと、敵がきたら危ねぇぜ。あぁ? 俺のそばにいれば、お前は俺が守ってやる。タローは俺とシャルの娘だからな』


 本当は、本当は、私に親はいないのに。私はダメな子。いけない子だね。悪い子だね。

 にゃんにゃんみたいに、私はちっとも強くない。たくさんの人に迷惑をかけてまで、私は私を貫けない。

 じっと二人のお人形さんを手に、俯く私の涙が落ちていくのを、どうしようもなく見つめる。

 ニコリと笑ってくれるシャルが恋しい。ツンと抱きしめてくれるまおちゃんが恋しい。

 わかってる。
 ここはきっと精霊城で、きっと私が元いた鳥かごだって。

 もう、あのあったかい魔王城へは、戻れないんだって。

「でも……もっと、もっとね、いっしょにいたいの……っ……たすけて、って……わがまま、わたし……っ」

 グスン、グスン。誰もいない部屋の中に、叶わない言葉がから回った。

 もっと早く言えばよかった。

 精霊界へ行かないで、私といっしょにいて。私、ここにいたい。助けて、守って、お父さん、パパって、言えばよかった。

 自分がなになのか、どうして魔界にたどり着いたのか、精霊族の儀式のこと、全部話しておけばよかった。

 都合の悪いことは全部隠して、なにも知らないフリをしたから、一番悪いことが起こっちゃったんだよ。

 私、知ってたのに。
 知ってたのに……!

 シャルとまおちゃんが私を愛してくれていること、必ず私を守ってくれること、知ってたのに、信じなかった。

「ご、ごめんねぇ……ごめんねぇ……っ、私、しゃるがお留守番してていいよって言ったのに、ありがとうも、言ってないぃぃ……っ」

 私がなにも言わないからなにもわからないのに、みんな私を守ろうとしてくれたのだ。

 だから私が今、ここに一人でいるのは、じごうじとく。



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