845 / 901
十五皿目 正論論破愛情論
45(sideキャット)
しおりを挟む──そうして二人で笑い合っていた時だ。
突然部屋の明かりが全て消え、キィン、と高い金属音のような音が聞こえた。
「……タロー様、俺の後ろに。決して動かないで。付与魔法をかけます」
望まれない来訪者の気配。
不穏なそれを感じた俺は、素早く身体強化をかけ戦闘態勢に入った。
自分の手から抜き取ったパペットをタロー様に手渡し、背後に庇う。
それから「風、物理防御耐性、魔法防御耐性」と唱えると、体内の力が相当量抜ける代わりに、タロー様にバフがかかる。
他人に付与魔法をかけるのは、かなりの魔力を消費するのだ。それでもせいぜい二時間くらいしかかからない。
回復魔法が得意な者が少ないのも考えると、たぶん、根っから魔族は守ることに向いていない種族なんだ。
それでも俺は、守らなけらばならない。
「っ、にゃんにゃ、だめ」
大きく広げた翼の影でタロー様は恐怖からなのか震え、俺を制止した。
生後一年も経っていない彼女が怯えるのも無理はない。敵は姿を現していないからだ。
夜鳥の声すら聞こえない、静かな室内。静寂の夜。
「大丈夫ですよ。俺はグリフォール、グリフォールは財宝の番人……防御が得意な種類なんです。ね」
これは、詭弁だ。
いつも味方陣地を守っている俺は、本当は一人だけの生き物を守ることなんてこと、滅多にない。
今は一人きりだし、魔力も消費している。自信はない。得意でもない。自分の防御力と他者を守ることは、同義じゃないからだ。
だがそうも言ってられないだろう。
ついさっき俺は守ると意気込んだところで、有言実行すべき。それが、魔界軍空軍長補佐官の仕事。
俺はニコリと笑って見せ、安心してもらおうと思った。
けれどタロー様の表情は、変わらない。
「ううん、ちがう、そうじゃない……っにゃんにゃん、見えてないの……?」
「え……?」
「この部屋、色がなくなったよ」
〝色がない〟
俺の目には月明かりまで色鮮やかに見えるこの部屋の中で、精霊族であるタロー様には、モノクロに見える……?
それじゃあ敵は──精霊族?
なんで、そんなバカな。
なにかの間違いに決まっている。
魔王様とシャル様、そして魔王様の近衛兵黒人狼部隊と、リューオ様。
彼らは今、精霊族に呼ばれ、霊界にいるんだぞ?
「た、タロー様は精霊族……同族なのに……っ」
冷や汗が頬を伝った。どれだけ明確な敵を探そうとも、展開したグリフォールの固有スキル、魔力警戒には引っかかっていない。
そう、引っかかっていないのだ。
この魔王城には、魔族が犇いているというのに。
魔力を持たず、タロー様には感知できる力を持つ種族の、攻撃。魔王城とこの部屋を切り離す能力。
それはつまり……──
「ッ、まさかもう俺たちは、上位精霊の空間支配下にいるのか……ッ!?」
「──ご名答」
聞き馴染みのない静かなバリトンボイスがどこからか聞こえ、俺の予想を裏づけた。
───────────
本日、十皿目の後に〝いつも木樫の作品をお楽しみくださりありがとうございます〟記念SS「番外編② しゅきしゅきビーム」を追加いたしましたぜ(ペコリ)
連載中の部分がお話の真っただ中なので途中に追加したため、こちらにてご報告をさせていただきまする!
シリアスシーンに茶々を入れる形になってしまい申し訳ございません。が、いつもありがとうございます(感涙)
木樫
40
お気に入りに追加
2,689
あなたにおすすめの小説


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。





ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる