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十五皿目 正論論破愛情論
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しおりを挟むもちろん二人がうまくいっていれば、なんて思ってもいない。
俺がアゼルのそばに必要なくなる。
譲る気は毛頭ない。
けれど、人の想いは伝えなければ意味がないんだ、となんだかままならないような、それでも美しいような、残酷な気分になった。
人に愛されたいアゼルは、人を愛することにした。
大切にされただけ大切にする彼は、だからこそ愛情深く、一途で、底抜けだ。
人に愛されたいアマダは、アゼルを愛することにした。
しかし臆病な彼は、それが返ってこない可能性に怯えて、伝えることをしなかった。
きっと、同じスタート地点にいたんだ。
交わらなかった二人の王。
アゼルは俺を見つけたが、アマダは五年前の二人の夜から──まだ動き出せずにいる。
「……アゼル」
「ん?」
行き場のないようなたまらない気持ちになった俺は、目の前でいかに俺が目ざといかを語っていたアゼルの胸に、擦り寄った。
すぐにギュウ、と抱きしめられる。
アマダが今日訪ねてきたこととその願いを伝える気はなかった。
アゼルはアマダを敵とみなすだろう。
俺とアゼルを引き裂く存在は絶対に許さない。そのくらいわかる。
──……片想いは辛い。
譲れないくせに胸を痛める俺は、やはり偽善者だ。アマダを傷つけてでも、アゼルは渡さない。
彼の来訪を黙っておくのは、せめてもの罪滅ぼし。
「俺は王様じゃない。弱い。お前より早く死ぬ。本名すら伝えられない。遺せない。故郷もない。この世界の不法侵入者だ」
「ン。でも俺はお前を諦めねぇぜ。お前も俺を諦めねぇんだ。こんな問答、不要だぜ」
「そうとも。精霊王でも、俺は絶対に譲らないぞ。お前は俺のものだ。魔王城で家族とずっと一緒に暮らすんだ」
「当たり前だろうが。最終目標はそれだ。そこに行くためのいくつものミッションをクリアして、また川の字で眠るんだよ。ミッションの攻略法は各自。俺はお前にあまり興味がなくなったフリをしねぇとダメだ。また離れることになる。……できるか?」
最終確認は刹那で許容され、一層強く抱きしめられた。わかっていたけれど、やっぱり嬉しい。
アゼルは今しばらく離れることと、精霊族がいる場では演技をする旨を伝えてくる。
俺は手紙から〝待っててくれ〟と読み取ったように、アゼルの行動からどうしてほしいのかを読み取って、共にいなくとも共闘しなければならない。
しかしそんなこと、今更だ。
俺はアゼルの唇にキスを贈り、彼の真似をしてふふんと笑った。
「誰に言っているんだ? 俺は極悪非道な魔王の妃だぞ。ダークなシャルさんはな、精霊族が立てた大切な計画を、思いっきり潰すんだ」
言葉の返答は同じくキスで。
今しばらくの別れを惜しみ、俺たちは欠片の憂いもなく、最高の未来へ向けて覚悟を決めた。
──余談だが、アゼルが洗濯に使った洗粉と石鹸の残りはどこへ消えたのだろうな……。
ちょっと褒めてほしくて洗粉や石鹸が俺の手作りだと言ったのだが、アゼルは「そうかよ」としか言ってくれなかった。
代わりに珍しくアゼルが俺の頭をよしよしとなでてくれたので、俺としては大満足である。
ふふふ。たぶんアゼルはなくしてしまったんだろうな。
いくらでも作れるから、なくしてしまったのならなでなでで誤魔化されてあげよう。
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