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十五皿目 正論論破愛情論

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「まあそれで洗脳されずに済んだ俺だが、それをする理由がわからねぇだろ? だから探るために、洗脳されたフリをしていたんだ。家族同伴って条件も怪しいしな……」
「むー……むむむー、むーむー」
「あぁ? 割と俺は他種族への警戒心が強いほうだからな。アマダとは付き合いがあるが、アイツは王だ。俺が守るものじゃねぇ。アイツは精霊族を守るべきだろうが」
「……むぅ」

 むーむーとしか言えない俺の言葉でもなぜか解読し、きっぱりと言い切るアゼル。

 ちなみに翻訳すると「なるほど……初めから疑っていたんだな」と、「……そうか」である。

 アゼル──というか魔王は強いので、勝てないことはあっても負けることはない。

 それ即ち、アゼルに敵意や邪な気持ちを持つ者たちは、封印や懐柔、洗脳を目論むわけだ。だからアゼルは裏切りや下心には、慣れているのである。

 過去に繰り返し傷ついていたおかげ、というのは悲しい話だな。

「……むむ……」

 それを思うと、俺はどうも哀愁に囚われた。

 天族、人間族の両方の王様と因縁があり、唯一対等な王だったアマダへ浮上する、裏切りの疑惑。

 アゼルはそれを気にしたふうもなく、相変わらず大事なものにハッキリと優先順位をつけている。

 俺が物言いたげに視線を向けると、アゼルは頬から手を離してくれた。

「アゼルは……アマダを愛するよう洗脳されかけたんだろう? 彼の気持ちには、気づいていたのか?」
「バカめ。俺はお前がなぁ、は、ははは、っ初恋だぜ。気づいてるわけねぇよ。その時知ったんだ。バカめ」

 桃色に頬を染めてプイ、と視線を逸らしながら「友達もいねぇんだ。色恋沙汰の愛だの恋だの、考えたこともなかった!」と唸られる。

 そうだった。
 アゼルは真性ぼっち属性だった。

 大きく納得したことと安心したことでふふふと笑うと、ムギュウ、とキツく抱きしめられる。これはおそらく笑ってんなよ、ということだ。

「言っとくけどな、アイツは俺にそんなこと言わなかった。司祭として結構会ってた時も、王様になって丸一日一緒の時も。なにも言わなかったし、なにもしてこなかったぜ。わかるわけねぇ」
「あぁ、そうなのか」
「基本、俺に興味ねぇんだよ。俺の天敵がナスってことも、別に知らなかったしな。……ぐ、グルル……! お前には隠してたのに、いつの間にかバレてた……ッ」

 好き嫌いを格好悪いと思っているアゼルが唸るのを聞きながら、それはなんだか寂しいかもしれない、と思う。

 アマダが泣くほどアゼルを諦められていないのを、俺は知っている。

 けれどそれをアゼルには伝えないから、アゼルはアマダが自分に好意を持っていると聞いても、それほど大事に思っていない。

 いや、思っているかもしれないが、その想いはアゼルの俺や魔界のみんなへの想いと比べるべくもない、とする程度だ。

 それに五年前のアゼルは、きっとまだ自分の居場所と仲間を愛するために、四苦八苦していた頃だと思う。

 極限状態ではなかっただろうが……アゼルは何度も失敗したと言っていた。

 俺と出会ってからも些細なことやすれ違いで泣いたり怯えたりと、試行錯誤の成長期真っ只中だからな。

 それより前となると、当然。

 覚悟をしても何度も失敗をして、王様という肩書きの重さの分だけ重い責任を取って、再度一歩ずつ踏み出していた頃だ。

 ──アマダがアゼルに救われたのなら、そんなアゼルにもなにか救いを分け与えてあげてほしかった、なんてのは傲慢な押しつけだが……。

 アマダがその時にアゼルをちゃんと見ていれば、アゼルの対等な友人は、そこにいたはずだろう。

 もしそうしていれば、結婚してしばらく後の休日に『友達ってなんだ?』なんて、アゼルは言わなかったと思う。

 俺はアゼルを愛しているからどうしてもアゼルを贔屓してしまう思考回路を、少し恥じた。愛を恥じる気はない。




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