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十五皿目 正論論破愛情論
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──深夜。
暇だ暇だと日々嘆いていた、精霊界での借りぐらし。
おかげで就寝時間が早まり、アゼルとコトを終えた後でも朝チュンではない。
というか、自重していないと思ったが一応他国で本気は出さなかったようだ。なんてこったい。
催淫毒が抜けてぐったりする俺を尻目に、寂しくて泣いたわけじゃないと誤解が解けて、ピンピンツヤツヤなアゼル。
リューオを起こさないように厨房の水瓶から桶に水を汲み、水を温かく熱して、汗ばんだ体を清めてくれた。
夜間気配隠蔽スキルの正しい使い方である。この貴重なスキルは、決してお嫁さんの一人遊びを観察するために使うものではないのだ。
ちなみに汚れてしまったシーツや俺の夜着の下も、アゼルがせっせと洗ってくれたので部屋干し中だったりする。
普段家事をしない魔王様だが、魔境時代は自分で手洗いしていたらしい。
料理はしなかった。
焼けば食べられる。
でも、石鹸に変わる石灰の粉は本を見ながら自分で作って、前の住人が作った残りを見よう見まねで増やしたのだとか。
ふむ。ちゃんと人らしい暮らしを送るべく、日々試行錯誤して生きていたんだな。
知っていることは器用にこなすアゼルなので、生地が怪力でズタボロになることなく、室内に張った細縄にかけられそよそよと夜風に揺れている。
俺はアゼルの新たな一面を見つけて、嬉しい気持ちだ。二年以上共にいるが、家庭的な一面は知らなかった。
そう思うと──やはりアマダにアゼルを譲るわけには、いかない。
アゼルは譲れない。
タローだって、リューオだって、魔族じゃなくても魔王城の大切な家族は誰ひとり譲れない。
「ん……アゼル」
「んあ?」
後始末が終わった後。
いそいそとベッドに潜り込んで俺を抱きしめるアゼルを呼ぶと、顔が見えるよう少し体を離してくれた。
替えのシーツがないので薄いタオルケットを敷いたベッドは、魔王城のものと違い長く眠ると体が痛くなる。
藁を森から刈ってきて魔法で乾燥させてかさ増しする前は、もっと酷かったが。
王様なのにそんなことを気にしないワイルド魔王なアゼルだ。
俺は手を伸ばしてアゼルの頬をむにゅ、と押しつぶした。
「お前がこのままここにいてくれるのか、それともまた精霊城へ戻ってしまうのか、それはどちらでも俺のすることは変わらない。どうせ、なにがなんでも解決するのだから」
「ふみゅ」
「だけど、その解決策は、俺とお前とその家族が『誰ひとり欠けることなく幸せに暮らしましたとさ』というあとがきが付くものなんだろうな?」
「ふみゅぅ」
一度目の『ふみゅ』は、当然だとばかりに。
そして二度目の『ふみゅぅ』は、当たり前だろうがとばかりに。
本当はあぁ、と頷いているつもりなんだろうが、間抜けな言葉になってしまった。
しかし意図は伝わる。
アゼルも俺と同じ気持ちで、同じエピローグの絵図を描き、今まで会いに来なかったのだろう。
それがわかって、俺は自然と破顔した。手を離すと、不満げにフスンと鼻を鳴らされる。
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