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十五皿目 正論論破愛情論
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しおりを挟むつまり彼は俺が邪魔で、だから直々に別れさせようとここへやってきたわけだろう。
俺にはアゼルを手放せない。
アゼルにもだ。確信できる。
とてもじゃないがいくら俺が泥棒猫なのだとしても譲れないし、そもそも譲ってほしいと言われてないしな……。
明確には言われてないけれど、〝アゼルのため〟という理由を持って言外に別れろとは言われた。
解放してほしい、という言葉は健気で柔らかで、アゼルを想った言葉に思える。
でもそれは裏を返せば、アゼルの意志を無視して自分勝手に俺とアゼルの仲を引き裂こうという、あまり喜べない行動じゃないか。
(なるほど……俺は初めから、喧嘩を売られていたらしいな)
いやはや、本当に今更気づいた。
面目不甲斐ない。リューオに叱られてしまう。
アマダは決定的なことを言わないから、難しい。
アゼルが好きだからどうしてほしい、のどうしてほしいを、空欄のままに語りかける癖があるみたいだ。
もしかしたら精霊族は相手に察してもらって自己申告してもらうのが普通なのかもしれないが、人間の俺はそれだと困った。
そして本人にそのつもりはないと思うけれど、無自覚にチクチク相手を刺してしまうタイプらしい。
傷ついた顔をしたまま思い出を語られると、つい自分が悪いのだと思った俺だ。
しかし良く考えれば、それはアマダのほうが昔からアゼルと親しいし、先に恋に落ちたし、寂しい境遇だから、譲ってくれるだろ? と言われていたわけか。
俺は涙に弱い。
全く本人にその気はないけれど、泣きながら言われると胸が破裂しそうな罪悪感だった。
「でも、でも……シャル、俺はアゼリディアスがお前より好きだ。俺ならお前より大切にするし、傷つけたりなんかしない……! 王様同士。アイツと対等になるために王様になったのに、これじゃ俺の五年が無駄だ……っ」
「くっ……」
あまりの懇願にオロオロしてしまう。
ここぞと言う時に泣いて頼み、泣いて弱るアマダは魔性の男だと思った。ある意味、彼は最強だ。
気づいた後だと絶妙に俺を貶して訴えてくることがひっかかり、泣き落とされそうになる心。
そこに魔法の言葉たちが待ったをかける。
〝こう言っているが、これら全てアゼルの意志は無視しているぞ?〟
〝アゼルはそれを望んでいないという本人の言葉を、ついさっき伝えたんだからな?〟
無自覚。
そう、無自覚にエゴイスト。
俺は頭を抱えて「なぜみんなアゼルを自分と同じくらい愛してやれないんだ!?」と叫びたくなった。
俺はアゼルを自分より愛している。アゼル第一。
もちろんアゼルが俺第一だからだ。
そうしろとは思わない。愛しているの温度は、人それぞれだ。
でも、同じくらいなら愛してあげられないのか? 俺たちのこれは、奇跡みたいなバランスなのか?
そんな馬鹿な。
愛する人を愛することは、当たり前だと思っていたのに。
ううぅ……困った、困ったぞ。
前言撤回だ。
アマダはいい人だけど、なかなか困ったさんじゃないか。
(アゼル、お前は本当に癖のある人にばかり好かれるな……!)
巻き込まれ異世界人である俺が受難体質であるように、悪運持ちの魔王であるアゼルは、悪いことが多く起こるけれど、どうにか報われてきた。
そういうアゼルなので仕方がないと言える。
仕方がないけれど、それじゃあ俺はどうやってアマダに納得してもらえればいいのやら。
まぁ……困り果てた先でも、思うことを言うしかないか。
「ぐす……なんで……? 俺はお前とアゼリディアスを思って、諦める覚悟をしたのに……それでも、アゼリディアスが不幸になるならと思って、正しいことを言いに来たのに……」
愛を用いて号泣する綺麗な男を前に、俺は悪役そのもののような気分ではっきりと言った。
「アマダ……俺より先に俺より深くアゼルを愛していた人がいて、その人たちがこうして泣いて傷ついてしまっていても。アゼルが名前も血も遺せない幻影のような俺を愛して、不幸になるとわかっていて、俺から身を引くことが大衆から見た〝愛情の正論〟だったとしても」
「っ……」
「ただのシャルとただのアゼルの愛情は、不幸のどん底で誰よりも幸福に笑っているんだ」
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