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十五皿目 正論論破愛情論

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 ぽっと出てきただけの俺がアゼルと結婚していて、そして俺といる時のアゼルがとても俺を大切にしてくれている。

 それはアマダにとって、どうしようもなくもどかしい光景だったはず。

 五年も片想いをしていたなら、余計に、胸の痛みは呼吸が苦しいほどだろう。

 一瞬痛ましそうな表情で息を詰めてしまい、返事が遅れた俺に、アマダは儚く笑って首を横に振った。

 気にしなくてもいいという意味。
 けれど気にしないわけがない。

 結果的に……俺は彼からアゼルを奪った憎い人間なのだから。

「な。……精霊王になる気なんて、五年前はなかったんだぜ。ただアゼリディアスと、対等に話がしたかったから……会いに来る理由が、欲しかっただけ」
「……そうか」
「薄っぺらい愛しかもらったことがなかった。俺は誰にも愛されない。体や地位で好かれても、それは嘘っぱちだろ? 惨めなもんだ。……でもアゼリディアスは、俺に言った」
「うん」
「『愛されたいなら、誰かを愛してみろ』って。散々泣きながら身の上話を聞かせた上で、頭をなでてくれて。恋愛の愛情なんかわからないって言っていたのに。……本当は優しいんだ。愛してしまうさ」
「うん。ちゃんと、わかるぞ」
「そうだろ?」

 アマダが語るアゼルとの思い出。
 アマダの事情。

 俺がわかると頷くとアマダはへらりと笑ったが、明らかに無理しているとわかる笑顔だった。

 ズキン、ズキン。
 胸の痛む音がする。人を傷つけた時の罪悪感だ。

 だが、俺は気丈に構えていなければならない。

 彼にとって勝者である俺は、哀れな顔をしてはいけないのだ。ふてぶてしくふんぞり返らなければ。

 目を逸らさずにアマダを見つめ続けて、震えた手は握り締めた。

 するとアマダはフイ、と目をそらし、月を見つめて呟く。

「シャルが来るより前から、俺は知っていたよ。恋もしていた」
「ん……」
「多少は、好かれてると思ってた。アイツは俺が触ると嫌がるけど、拒絶したりしないんだ。食事も一緒にしてくれる。話だって興味なさそうにするのに、相槌を打たないことはないのさ」
「っ」

 月を見つめるアマダが語るアゼルへの想いを、アマダを見つめる俺は聴き続ける。

 けれどどうしてか、やっぱり胸が痛かった。

 人に心を開くのが下手くそなアゼルは、自分に声をかけてくれる人を無碍にはしない。

 声をかけてくれる人自体が少ないことをわかっているから、その貴重な人を大切にしている。

 その中にアマダが入っていたことが、よくわかるのだ。

 アゼルを好いてくれる人がいるのはとても嬉しいのに……俺は、それが〝恋愛感情〟だと胸がザワついてしまうらしい。

 そしてそのせいか、ただ思い出を語っているだけのアマダの言葉が俺を責めているように聞こえてしまうのが、嫌だ。

 被害妄想甚だしい自分に罪悪感が増す。



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