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十五皿目 正論論破愛情論

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「……うん……そう、だよな……」

 バッサリと拒絶されたアマダは口元は笑ったまま頷いたが、伏せた目はやはり寂しそうで、悲しげな声と相まって儚い魅力を持っていた。

 納得しているふうだが外に出ないところを思うと、未練があるのだろう。

 けれど俺にもリューオにも、言葉をかけなかった。

 シン、と一瞬静まる空間でリューオとセファーが苛立ち意見しようとするが、お互いを牽制しているので迂闊な行動はできない。

「…………」

 アマダがなにも言わずに俯いている今、この場の決定権が俺に委ねられたのだと察した。

 リューオは俺を心配してくれているから、反対だと思う。

 アゼルに頼まれたとおり、俺を護衛しようとしてくれている。

 それが一番正しいし、そうしなかったがためになにかあれば後の祭り。

 理解して、咀嚼して、俺はじっとリューオを見つめた。

「リューオ、俺は話をする。扉を少し開けておくから、外で待っていてくれないか?」
「…………チッ」

 ズッ……、と音がして、リューオは舌打ちをしつつも俺の頼み通りに動くため、肩に聖剣を担いだ。

 途端にパッと顔を上げたアマダが、俺を見つめて「ありがとう」と言う。

 うん、よかった。頷き返す。

 あんなに悲しそうにされると、危険とわかっていても無下には扱えない。

 俺はリューオが部屋を出て行く前に黙ってパチン、と手を合わせ、魔法が使えるリューオにだけ見えるよう窓際に爆破魔法陣を貼り付けた。

 なにかあったら、ここを破壊して脱出するということ。

 そうなったら外で落ち合えるし、すれ違うこともない。一応備えているんだ。

 キィ、とドアが閉まり、寸前で止められた。

 部屋の中には二人きりだが、施錠されて閉じ込められることがないように。

 静かになった部屋の中で、俺とアマダが見つめ合う。

 話というのはなんなのか、鈍いと言われる俺には検討がつかない。

 自然に生きる精霊族がそうなのかわからないが、アマダはあまりハッキリとした言い方をしないので余計だ。

 でも俺が間違うと、彼は悲しげに俯く。
 笑っているのにそんな目をされるのは、とても胸が痛くなる。

 俺とてアゼルのことを聞きたいけれど、まずはアマダの話を聞かないとだ。

「それで、話というのは?」 

 じっと澄んだ青い瞳を見つめると、彼は一度目を逸らしたが、ややあってもう一度目を合わせた。

「シャルは……アゼリディアスと出会ってどのくらい?」

 アゼリディアス。
 アゼルの名前だ。さっきも呼んだ。

 魔境にいた頃、空っぽの廃村と家財や書物に囲まれて一人で暮らしていたアゼルが、自分の名前をそうと仮定しただけのもの。

 文字を読めるようになって物語を読み、名前というものを知って、ようやく自分の持ち物にそれらしいものがあるのをみつけたのだ。

 天族の王族はナイルゴウンと呼んでいたのに。俺以外に名前を呼ぶ人がいたことを、初めて知った。

「二年か、二年半くらいだと思う」
「そうか……俺は、五年前から、彼に恋をしているんだ」

 ピク、とテーブルの上で手が動く。

「……なる、ほど」

 話というのは、そういう話らしい。

 俺はそこでようやく彼が俺を見ていて悲しげにしていた意味がわかった。



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