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十五皿目 正論論破愛情論

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「悪いな……セファーは俺に近づく人を、誰だって警戒するんだ。いいやつだよ」
「あぁ、大丈夫だ。俺には精霊族をどうこう思う気持ちはない。警戒はいくらでもしてかまわない」

 無手をアピールするために両手をあげてそう言うと、アマダは一安心して「ありがとう」と礼を言う。

「それじゃあ改めて……はじめましてだな、アマダ。俺は大河 勝流。シャルだ。そしてこっちは、」
「ただのリューオ。シャルの護衛を押し付けられた可哀想な男だぜ」
「うん。可哀想なリューオだ」
「ケッ!」
「あいた」

 人間だと名乗らずに自らただのリューオを名乗ったリューオをそうと認めると、なぜかポカッ! と頭を叩かれた。

 リューオは普通に力が強いので、ツッコミで殴られても痛い時がある。

 思わず声を上げたが、リューオは素知らぬ顔で警戒はしたままに、退屈そうな様子で腕を組んだ。

 やはりリューオは王様の前でもリューオである。

「ははは、仲がいいなぁ。……」
「……王……」

 そのやりとりを見ているアマダが美しい瞳に影を落としたのも、それをもどかしそうにセファーが見ていたのも、俺は気がつかなかった。

「遅くなったが、霊界に招待してくれてありがとう。泊まるところも用意してもらえて、感謝している」

 アマダに相対する俺は、できるかぎり友好的に笑顔を返した。

 なぜ到着してからひと月も経った今になって挨拶に来てくれたのかはさておき、外交にヒビを入れるのはアゼルに迷惑がかかる。

 気に入られようとは思わないが、できれば仲良くしたい。そんな下心と、あとは純粋な好意だ。

「立ち話もなんだから、そこにかけてほしい。お茶を用意する。お二人共、コーヒーでいいか?」
「いや、大丈夫だよ。今日は話があっただけですぐに帰るから、構わなくっていいぞ」
「え……?」
「えっ?」

 俺とリューオで二脚しかない木製の椅子を手で指してそう言うと、アマダは肩をすくめて首を横に振った。

 予想外に遠慮された俺は、つい目を丸くしてしまう。

 隣のリューオは小首を傾げている。
 驚かれたアマダも同じくだ。

 ちょっとした驚きだが、俺はアゼル以外の王様はいい思い出があまりないので、あまりにも普通なアマダにビックリしてしまった。

 悪い王様の例は、グウェンちゃんである。

 天界に招待された時の記憶を思うと、精霊族はみんないい人だな。

 記憶は奪わないし、拷問はしないし、殺して拐わずにちゃんと招待してくれるし、最終的に全軍で囲んで殺そうとしない。

 人間の王様だって、俺を利用して追い出し、今度はリューオを利用してけしかけた。騙されてばかりだ。

「いや……アマダはいい王様だな。俺のような弱い生き物を、見下さないでいてくれる。ありがとう」
「っな、なんでそう……?」
「思っただけだ。それじゃあ話をしよう」

 過去を思うとアマダの態度が嬉しくなって、俺はニコリと笑い、席に座るよう促す。

 リューオは確かに、とでも言うように頷いて、なにも言わずにいた。

 勝手に召喚されて八年も放置され、言葉も知識もないまま文字通り死にものぐるいで生きたリューオとて、王様は嫌なもの。

 今でも村の仲間に手紙やお金や希少素材を送っているリューオは、義理堅い昭和のヤンキー気質だからな。



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