上 下
816 / 901
十五皿目 正論論破愛情論

16

しおりを挟む


 ◇


 一ヶ月も触れ合えていないことを嘆いた翌日。

 日常と化した自給自足の夕食も終わってイズナがどこかへ消えてから、俺とリューオが二人、カードゲームで気を紛らわせていたところだ。


「はじめまして、シャル。俺は霊界の王──精霊王、アマダ・サアリオッツ。気安く接してもらって大丈夫、アマダと呼んでほしい」


 突然訪ねてきたのは、俺の目の前でにこりと愛想よく微笑む、落ち着いた美形の男。

 黒く滑らかな髪をひとつにまとめ、澄んだサファイア色の瞳を魅力的に緩める。

 敵意はいっさい感じない、明るい笑顔だった。

 彼は精霊界に来た時には会わなかった、玉座の間の向こう側の人である。

 そして現在、アゼルを精霊城に引き止めている男でもあった。

 俺の護衛という名目で共に滞在することを許されているリューオは、俺の斜め後ろに控えている。

 素知らぬ顔で大人しいが、敵意を携えて警戒を解かない。

 精霊王アマダの後ろにも、護衛らしき側近が一人控えていて、リューオと彼は睨みあうように気配を膠着させていた。

 俺はリューオの脇腹にトンと密かに肘を当ててたしなめる。

 リューオはすぐに目を逸らして、バレないように俺の足を突いて仕返しをした。まったく、なにごとも負けず嫌いだな。

 それでもその男は目を逸らさずに敵意を持ってリューオを、俺達を睨んでいた。

 白い髪の美しい男だ。
 長い髪がゆらめき、男らしくも神聖さすら感じる容貌は、まさに精霊足り得る。

 美しいだけではなさそうだ、というのが俺の見解だが。

 視線に気づいたアマダは自己紹介に続き、背後の側近に目を向ける。

 睨んでいることに気がついて、しょうがないな、と呆れた笑みを漏らした。

「こっちは左王腕さおうわんセファー・ヨルィオ。精霊城で王の左腕、政務を補佐してくれている。セファーでいい。仲良くしてほしい」
「わか、」
「いえ、王。仲良くする気はありませんよ? 王の邪魔をするものは無価値です」
「おぁ……」
「またお前はそんなこと言って、もう」

 ユリスやアゼルとはまた違う、どちらかと言うとゼオに近い様子でツンと関係を断ち切るセファー。

 アマダが苦笑するだけなのを見るに、いつもこうなのだろう。

 えと、しかし俺たちは邪魔? を、する気はないぞ。

 その気がないのに取り付く島もなく突き放されたのは、ちょっと寂しいが別に気にしてない。

 彼はおそらく、アマダのことがとても大切なんだろうな。

 精霊族が性別を気にするのかは知らないけれど、セファーの瞳にはアマダへの愛情があるように感じた。 

 ふふん。俺だってそういうものをわかるようになったんだぞ?

 アゼルやリューオたちやキャットたちを見ているからだ。

 隣のリューオは不快感丸出しの〝うげぇ〟っとでも言いたそうな顔をしているが、それはまた脇腹をつついておいた。また足をつつかれた。



しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...