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十五皿目 正論論破愛情論
15(side?)
しおりを挟む──月明かりの影を走り抜ける、小さな影がひとつ。
気配を断つ彼は数多く漂う兵士や精霊に見つかることなく、城の上層階に用意された、豪奢な一室の窓辺に忍び込んだ。
そこで彼がくるのを待っていた男は驚かず、淡々と迎え入れ、部屋に結界を張る。
話が漏れないよう、他者が近づくと接触する前に気がつくよう、高度な結界は彼と男の密会を隠蔽した。
それほど重要な密会なのだ。
用心するに越したことはない。
男は言葉少なに彼に報告を求める。
相変わらず愛想のない男だが、冷たいわけではないことは知っていた。
貴重な協力者として最適の人材だ。
「……って感じで、嫌がらせはちっとも効いちゃあいませんでしたぜ。戦闘や毒殺に関しちゃ、聖剣の勇者がチートなんでさぁ。生活関連は、嫁さんのほうでぃ。勇者はうっかり死ねばいいって程度の悪意が入った嫌がらせって気づいてるけども、嫁さんのほうはちっとも気づいちゃいねぇや。それ前によぅ、揃ってサバイバル能力高いのも異常さね……」
「──? ──。──」
「そ、そう怒らねぇでくだせぇよぅ! なにかあったら守るつもりで、俺ぁおんだされるのを覚悟の上でお二人の前に出たんでさぁ! 物乞いのフリなんかしてよぅ!」
「────」
「……はいようはいよう。試しましたよぅ。俺ぁ囲われているだけでちくっとも自分じゃ動かねぇ情けない男が大嫌いなんでぃ。そこは文句を受け付けませんぜ。これは俺のルール」
「──。──?」
「……そうですねい……俺の完敗、予想外。……敵地において自分の行動の結果を考えない、お人好しなだけのバカじゃない。あからさまな演技で明らかに怪しい俺を警戒して捨て置くこともしない。状況をわかった上で、自分の身勝手だともわかった上で、アイツは俺を助けた」
男への報告をしながら、自分の獣の小さな手を見つめ、彼はあの日の出来事を思い返す。
精霊城からの嫌がらせで食料が空の状況で、自分たちが仕留めた獲物を不審で取るに足らない小動物へ分け与えるなんて、霊界じゃ考えられない。
そして倒れたフリをした彼が怪我をしたのでは、と自分の薬を躊躇なく使った。
人間国でしか手に入らないのにだ。
わからないことだらけの奇妙な予感がする今、もし突然霊界と争いが始まって深手を負ってしまったら、自分の分がないというのに、とんだ考えなしである。
勇者は当然警戒したしとても怒っていた。
でもそうすると思ったって、仕方ないって。
たぶん、あれはずっとそうなのだろう。
彼の話を聞いた男が当たり前のような顔をしているのも、そういうことなのだ。多少ドヤ顔が鼻につくが。
まったく……話題に上がった途端空気を緩めるとは。
「アイツ等を信用する。あの二人を巻き込んだほうがいいってのは、わかってるからな。……でもいいのか? 大事なものなんだろ──魔王」
「ふん。人間だってアイツ等は別だ。俺が愛した人間と、俺が認めた人間だからな」
〝おとなしくしてろって言っても、どうせアイツ等は俺の背中から飛び出して行くんだぜ〟
そう言った男──アゼルは、そっぽを向いて呆れた声で言ったが、どこか嬉しげで機嫌がいい気がした。
「言っとくがな、一緒に戦ったら、俺は負けねぇよ」
ニマニマと誇らしそうにこちらを見るアゼル。
初めて見た時は別人か頭がおかしくなったのかと、協力を仰ごうとした手前焦りもしたけれど、これは妃に関連した時のノーマルなのだろう。
「頼もしいことだなぁ」
気持ちのこもっていない投げやりの返事をして、彼はそっと苦笑した。
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