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十五皿目 正論論破愛情論
11(sideゼオ)
しおりを挟む「──なのです。だからこの五つの棒から三つ引いたら?」
「わかった! ふたつ!」
「そうですね。ではそれを書いて次の問題に励んでください」
「うん、はげる! ぜおさま、ありがと~!」
禿げなくてもいいのだが。
完全に励むをハゲむと繋げてしまっているタローに、もしかしてこれは余計な知識をつけてしまったのでは、と彼女の両親へそっと謝罪をしておく。
そんなゼオににぱー、と笑ってきちんとお礼を言い、ちっとも褒めない氷河期対応を怖がる素振りもないタロー。
「……ま、こっちのほうがかわいいだろうな」
ガタンッ!
思ったとおりに呟いただけなのだが、窓が軋んで空中で暴走飛行する物体が見え、深い溜息を吐きたくなった。
いたのかお前。
そしてこのかわいいは、そういう意味のかわいいじゃない。
ゼオは隠れキャットの暴走を、なかったことにした。
めんどくさいのが二人に増えると、手に負えないのである。
「ね~ゼオ~。俺っち昨日までいろいろ準備して頑張ってて、結構お疲れなのよぉ? どして氷漬け? ハゲるよ?」
「そうですね。だからサインだけすればいいように書類をまとめておいてあげたんですよ、俺は。さっさと書け」
「見張り付き執務とかやる気でぇなぁいぃぃぃっ! かわいい女の子がいないとやぁだあぁぁぁぁっ!」
「は。ご要望通り女の子がいるでしょう」
「それ幼女ッ! そして上司の娘ッ!」
バタバタとカーペットの上でダダを捏ねるのは、みかん箱のテーブルで書類を捌かされている陸軍長官──マルガン。
実はずっといたのだ。
初めからいたし、初めから床執務である。
ゼオが徹底的に冷たくあたるのとその教育により〝マルちゃんは駄々っ子だから構っちゃダメ〟と認識しているタローは、マルガンが床で暴れていても特に気にしていない。
「ちょっとゼオ、ここで破壊工作だけはやめてよねっ! 殺るなら汚れないようにして!」
「わかってますよ、ユリス」
「うわぁいこの部屋四面楚歌~!」
そしてこの部屋の主である海軍長子息であるユリスも一切気にしないので、マルガンのダダを聞いてくれる人なんて一人もいないのである。
ちなみに両親不在の間タローのお泊りを承っているユリスは彼の生活スペースを提供してくれていて、現在のタローの保護者だ。
そしてチャラ男に厳しいユリスとチャラ男に慈悲のないゼオは、同年代だったりする。
これを知っているマルガンは「なんでそんな俺っち絶対殺すマンが集まった殺伐世代なわけぇっ!?」と嘆いたが、当然無視された。
なぜならそれがマルガンなのだ。
「しかも俺っち長官なのに、みかん箱って……ッ! みかん箱って……ッ!」
「テーブルがあるだけありがたいと思ってください。俺だって忙しい中あなたを捕まえて書類を処理させるの、結構めんどくさいんですから」
「じゃあ見逃してくれてもいいじゃんっ!? 俺っちだって美女との婚姻届以外でサインなんかしたくないんだよぉっ! ……あ! そうだ、ゼオにゃー陸軍長官やんね?」
「ゼオ!」
「…………」
パチンと指を鳴らしてウインク混じりに言われた言葉を聞いた瞬間、ゼオが魔法を使うより早くユリスから静止の声が上がる。
……チッ。先読みされたか。
上司への殺意より、部屋の主の言葉が優先だ。
ゼオは舌打ちで我慢し、マルガンを黙って冷ややかに見つめるにとどめた。
マルガンが青ざめているが、知ったことじゃない。
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