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十五皿目 正論論破愛情論
10(sideゼオ)
しおりを挟む──魔王城・某部屋。
「いいですか、ご息女様。こちらのドリルで俺から花丸を貰えましたら、お父さんが作り置きをしてくれていたクッキーを、ご褒美に差し上げましょう」
「しゃるの! くっきー!」
「はい。ですから勉学に励んでください」
「は、はげ……!」
「髪は毟らなくていいです」
ガビーン、とショックを受けた表情で自分の長い髪を掴むタローに、淡々とドリルを差し出す。
そこには〝せいご三日からはじめるゆかいなさんすう〟の文字がある。
シャルから言いつけられていた、タローの日々の宿題だ。
最高権力者である魔王とその妃であるシャルが霊界へ旅立って、早一週間。
彼らからタローの護衛兼世話係を命じられていたゼオは、こうしておはようからおやすみまで、タローの安全と学力向上に尽力しているのである。
まあ夜間警備もしているので、正確には四六時中だが。
直接の命令と特別手当には逆らえまい。
時たま昼寝をしているので、さほど問題もないのだ。
「…………」
「うー……うー……」
華美な彫り物が施された丸いテーブルの上、広げたドリルと唸りながら格闘するタローを、相変わらずの無表情で見つめる。
子どもは好きではない。
総じてうるさいことと、感情の理由がわからないことと、言葉が通じないこと。
どれも煩わしくて、なぜ自分がこの役目を命じられたのか、ちっとも理解できない。
ゼオにだって仕事があるのだ。
誰かさんがサボるから。
だがそれを置いても、アゼルはゼオを選んだ。王の考えていることはよくわからない。
シャルに懸想していたあてつけだろうか。
いや、それはもっと前にバレていたし、きちんと骨折で手打ちにしてくれた。
ああいう思いっきりぶちのめしてくるところは、サッパリしていて好きだ。
──ま、どうでもいいか。
仕事ならなんでもする。
ゼオの思考時間、わずか三分。
窓辺のこの席に差し込む日光が眩しくて邪魔だ、なんて思考に上塗りされ、以降疑問を抱くことはなかった。
アゼルはゼオのこういうビジネスライクなところを買ったわけだが、それはゼオの知らない話である。
後は性根がひねくれているので抜け目なく、ただではやられないところもだ。
「うー……う? ぜおさま、これできないぃ~」
「はい。引き算ですね」
唸っていた小さな頭が小首をかしげ、自分にヘルプコールをした。
ゼオはそっと隣の彼女へ顔を寄せ、ドリルを覗き込む。
ちなみに名誉のために言っておくが、この呼び名はゼオが強いているわけではない。
もう一人、世話係であるゼオが苦手とする遊び相手用にアゼルが任命した、某空軍長補佐官様のせいである。
あのピヨピヨと泣き虫な小鳥──キャットが、普段からタローに「ゼオ様が~」やら「ゼオ様の~」やら語るものだから、いつの間にやらタローもそう呼ぶようになってしまったのだ。
ゼオのことが恋愛的に好きだと、日々告白という玉砕を繰り返している男でもある。
以前初の告白にコンマでお断りをしたのだが、その後ウジウジし始めたのがめんどくさすぎて、諦めるかアタックし続けるか今すぐ決めろと追い詰めたのがアダとなった。
すると「諦められません~ッ!」なんてギャン泣きしたキャットは、あれから隙あらば物陰からこちらを伺っていて非常に邪魔くさい。
恋する乙女な行動に、今のところキュンときたことなんて皆無だ。
やっているのが百八十近い身長の魔界の貴族で、爽やか系イケメン。
現在筋トレを日課に強化中。
どこにかわいさを見い出せと。
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