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十五皿目 正論論破愛情論
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空腹に唸る猛獣と連れ立ってすぐそばの森に入ってから、一時間が経過。
俺の目の前には牡牛二匹分ほどの大きさがある、角部分がイッカクのような巨大な鹿が、ドドン、と横たわっていた。
おわかりのとおり、言わずもがな、だ。
俺とリューオの連携──というかほとんどリューオの一刀両断が致命傷だが、狙いのオーガディアーを見事仕留めたのである。
バーサーカーモードのリューオは、殺人鬼か盗賊か猛獣かにしか見えないからな。
ちょこちょこ隠密で罠を張るくらいしか、俺の仕事はなかった。
森が荒れないように頑張ったぞ。
「まぁこれで晩飯と明日の朝昼飯分くらいにはなンだろッ。自分の腕の素晴らしさに惚れ惚れするわ。マジで」
「胃袋も魔族並、いや、いいんだ。リューオは紛うことなき勇者だ」
「ハッ! 常日頃魔王とタイマン張ってる俺にとっちゃァ、魔物程度もうただの動物と変わりねェぜッ! 魔王と殺り合うと経験値えげつねぇかんな!」
「ん。それは良かった」
ふははははッ! と高笑いしながら、リューオはバッサバッサと手際よく聖剣で解体していく。
俺はその周りで解体した肉を召喚魔法域にしまい、血や脂を土の中に埋めた。
ちなみに日々の料理や肉を熟成させたり燻製にしたり、万が一に備えて保存できるよう加工するのも俺の仕事だ。
リューオは料理ができない。
掃除もできないので、適材適所というわけだ。
代わりに俺より容赦なく俺より苛烈に敵を葬ってくれる。
俺には真似できないことだ。
本人に言うと怒るけれど、リューオはやはりアゼル寄りだと思うんだがな。
そうやってせっかちなリューオが苛立ちを魔物解体で発散しきった頃、辺りはすっかり夕暮れ時となっていた。
夜になると魔物のランクが上がる。
夜闇の中でも変わらず弱肉強食に打ち勝てる魔物だから、当然だ。
俺とリューオとて一応人間なので、危なくなる前にさっさと離れへ帰ることにした。
「──ん?」
その帰り道の途中だ。
不意にそばの草陰が、ガサ、と揺れた。
俺とリューオは傍目にわからないが魔物の襲来に備えて身構え、その草陰を注視する。
敵意は感じないが、ここはアウェーな精霊界。いつどこからなにかしらのトラブルが襲いかかっても、おかしくないのだ。
ゴクリと唾を飲む。
しかし一瞬の緊張感の後、草木を掻き分け現れたのは──緑がかった白髪のイタチもどきだった。
「なんだ、イタチか」
「ケッ、イタチかよ」
スッと同時に警戒を解いて呟き、俺とリューオはひと安心する。
小動物だ。かわいいじゃないか。
シルバニヤンファミリーな感じだぞ。
「俺ぁイタチじゃねぇですぜぇぇぇぇ~……!」
「「喋った!?」」
小動物じゃないじゃないか。
どういうことだ。詐欺か?
癒し系だと思ったのに、弄ばれた気分である。
唯一の同郷の友人である俺とリューオは息もぴったり。ユニゾンツッコミもお手の物。
目の前に躍り出てキュイキュイと饒舌に喋るイタチもどきに、それぞれが落胆と怪訝な様子で対応した。
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