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十五皿目 正論論破愛情論

03

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 ◇


 ──精霊界。
 世界に横たわる霊峰を、そう呼ぶ。

 四大元素である火、水、土、風、その他の細かな自然を各々が司る、精霊たちが住まう国だ。

 空に浮かぶ天界。
 地上を取り合う魔界と人間界。
 その両方に跨る霊峰、精霊界。

 その中でも一際高い山の中腹へ隠すように建てられた城が、精霊城だ。

 外側を特殊な水晶が覆っていて、陽の光を浴びると美しく輝き、光学迷彩じみた透明化を実現させている。

 人間には理解することができない特殊な能力、霊法で隠蔽された世界。

 魔族や天族と違い、自然に紛れ滅多に表に出てこないまま独自の文化を築く精霊は、未だに謎めいているのだ。

 そんな精霊界の中枢・精霊城に招かれた俺は、どういうわけか──軟禁状態だったりする。


「暇だな」
「ガチめにな」


 小さな丸テーブルに向かい合わせに着いた俺とリューオは、気の抜けたやり取りをして、同時にズズズ、とコーヒーを啜った。

 んん。精霊界、人それぞれだがコーヒー文化らしい。

 紅茶文化である魔界で紅茶に慣れている俺たちは、久しぶりに喉を潤すコーヒーへ、意味なく視線を落とす。

 現在は、ちょうどティータイムの時間だ。
 窓の外は晴れ渡っている。

 形の不確かな精霊や人に似た精霊がふよふよと漂う青空が、目が覚めるように美しい。

「いやでも暇だわ。マジで」
「困ったな……」

 いい天気だな、とばかりに窓の外を見ていたからか、リューオがバッサリと切り捨てた。

 仕方がない。胸のすく光景だとしても、その事実は変わらないものだ。

 もうトランプも手作りウノもそれなりに遊んだし、しりとりは別のことをしながらでもできるくらい極めてしまった。修学旅行並みである。

「「はぁ……」」

 二人同時に、今度はため息を吐く。

 俺たちが精霊界に来て、一週間。

 到着早々アゼルと引き離された俺は、城からやや離れたところに建てられている離れに、リューオと二人きりで無為な時間を過ごしていた。

 そこそこ広いが、警備という名の見張りである門番以外誰もいない、この離れ。

 働かないと落ち着かない俺なので、家事が終われば終始そわそわである。

 俺の専属護衛として使用人名義で潜り込まされたリューオは、余計にこの軟禁生活は腑に落ちないだろう。

(というより、ユリスと離れ離れにされたのが嫌なんだろうな……)

 ツンケンとしつつも見えなくなるまでずっとアゼル号(第三形態だな)を見つめて、名残惜しそうに送り出してくれた友人を思い出す。

 おかげで俺と共に背に乗っていたリューオが、これみよがしにアゼルの毛皮を毟りだすのを止めるのに、そこそこ苦労したぞ。

 一応防御力が高いのでハゲなかった。

 でもリューオは般若のような形相で聖剣を取り出すものだから、流石にハゲてしまう。

 ハゲてもアゼルへの愛は変わらない。

 しかしモフモフは財産だからな。
 俺は懸命に止めたぞ。いい仕事をしたと思う。

 閑話休題。話を戻そう。

 先述のとおり、その脱毛を回避した魔王様兼俺の旦那さんであるアゼルとは一週間も、対面はおろか、連絡が取れていないのである。

 恋人と離れ離れになって覇気がないのは、リューオだけではない。

 しゅん……、としょげかえって窓の外ばかり見てしまう俺とて、理由を告げられず愛する人と離れ離れにされて、そろそろ本格的に寂しいのだった。



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