800 / 901
序話 またきてしかくい精霊王
04(NOside)
しおりを挟むさよならさんかく、またきてしかく。
しかくがなにかは人それぞれ。
人のしかくがわからないから、世界はまるく収まらない。
さよならさんかく、またきてしかく。
忘れたさんかくはどこへ行くのか。
さんかくと交わしたさよならを、きっと世界は忘れている。
さよならさんかく、またきてしかく。
あちらのしかく、こちらのしかく。
どちらも正しくしかくなのに、しかくはこちらといがみ合う。
さよならさんかく、またきてしかく。
「さんかくが哀れでならないなぁ……お前に近付く資格が欲しくて、ひと角の王冠をかぶったのに……お前の隣には、別のしかくがいるなんて」
水晶で飾られた美しい城で、王座に座る一人のしかくがぽつりと呟く。
しかくは笑っているが、どこか寂しそうだ。
自由な精霊の世界で不自由になることがあるなら、それは心だけだからだろう。
彼を見つめるいくつもの瞳が、同じく悲しそうに伏せられる。
愛する人が、敬愛する王が、ひっそりと育んだ愛を突然突き放されたのだ。
これが嘆かずにいられるのか。
王が王になってから、そう簡単に城から出られなくなった。
司祭であった五年前より以前は風に乗って会いに行けたのに。
もっと傍へと望んだ地位は、年に一度と制約を付けた。
そうしている間に、気がついたら奪われていた。これはそう言う恋だった。
「王、どうして奪い返さない。元々こちらのものじゃないか。どうして魔王にいちいち儀式の詳細を教えるんだ。神がなんて言うか……」
「ジズを、か? んー……だってな、きっと怒るから。もちろんだめだったらこっそり返してもらうけどさ、俺はみんな仲良くしたいからさ。一応、家族で来いと言ったんだ。説明すればわかってくれるぞ? アゼリディアスは優しい」
「王、それだと妃も来ます。二人でいるところを見たら、あなたは傷つくのでは?」
「そんなの、……まあ、別にいいんだ。俺なんて、愛されないものだ。好きになってもらえるように頑張ってみるけれど、難しいと思うからさ」
よく似た容貌の男が二人、我慢ならずに声をあげた。
黒い男は静かに怒り、白い男は悲しむ。
それでも王は無理に笑うだけだ。
周囲から嘆く視線が溢れる。
魔族が魔王を愛するように、精霊族は精霊王を愛する。
──なんて不自由な世界だ。
そう思ったのは少し離れた位置でその様子を見ている、青みがかった白髪の男だった。
豪奢な壁にもたれかかり、腕を組んで無感動に見つめる。
「まるで茶番だ」
それもとびきりつまらない。
銅貨の欠片もボッタクリだ。
半端ななにかと、してやった見返り。
期待の裏切り。
行動しなかったくせに自分を哀れむくらいなら、殺される為に生まれた少女を哀れめばいいのに。
せっかく逃がしても、こうして運命に呼ばれた命を。
さよならさんかく、またきてしかく。
なくした穴を埋めるカタチがまるだとしたら、尖ったお前が間違いだ。
尖った見返りがないと傷つけるなら、まるくなれやしないのだ。
「……心のカタチの戦争、クソみたいな茶番が始まるぜ」
何者でもなく何も持たず何も残せないが、誰よりもひたむきに愛するカタチ。
対等な地位を得て純粋な愛と理由を持つ、誰よりも正しく相応しいカタチ。
そして血の繋がらない家族を守るために、それを妨げるものを踏みにじる覚悟があるのか。
はじめよう。
──愛情争奪戦だ。
序話 了
30
お気に入りに追加
2,669
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる