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序話 またきてしかくい精霊王
04(NOside)
しおりを挟むさよならさんかく、またきてしかく。
しかくがなにかは人それぞれ。
人のしかくがわからないから、世界はまるく収まらない。
さよならさんかく、またきてしかく。
忘れたさんかくはどこへ行くのか。
さんかくと交わしたさよならを、きっと世界は忘れている。
さよならさんかく、またきてしかく。
あちらのしかく、こちらのしかく。
どちらも正しくしかくなのに、しかくはこちらといがみ合う。
さよならさんかく、またきてしかく。
「さんかくが哀れでならないなぁ……お前に近付く資格が欲しくて、ひと角の王冠をかぶったのに……お前の隣には、別のしかくがいるなんて」
水晶で飾られた美しい城で、王座に座る一人のしかくがぽつりと呟く。
しかくは笑っているが、どこか寂しそうだ。
自由な精霊の世界で不自由になることがあるなら、それは心だけだからだろう。
彼を見つめるいくつもの瞳が、同じく悲しそうに伏せられる。
愛する人が、敬愛する王が、ひっそりと育んだ愛を突然突き放されたのだ。
これが嘆かずにいられるのか。
王が王になってから、そう簡単に城から出られなくなった。
司祭であった五年前より以前は風に乗って会いに行けたのに。
もっと傍へと望んだ地位は、年に一度と制約を付けた。
そうしている間に、気がついたら奪われていた。これはそう言う恋だった。
「王、どうして奪い返さない。元々こちらのものじゃないか。どうして魔王にいちいち儀式の詳細を教えるんだ。神がなんて言うか……」
「ジズを、か? んー……だってな、きっと怒るから。もちろんだめだったらこっそり返してもらうけどさ、俺はみんな仲良くしたいからさ。一応、家族で来いと言ったんだ。説明すればわかってくれるぞ? アゼリディアスは優しい」
「王、それだと妃も来ます。二人でいるところを見たら、あなたは傷つくのでは?」
「そんなの、……まあ、別にいいんだ。俺なんて、愛されないものだ。好きになってもらえるように頑張ってみるけれど、難しいと思うからさ」
よく似た容貌の男が二人、我慢ならずに声をあげた。
黒い男は静かに怒り、白い男は悲しむ。
それでも王は無理に笑うだけだ。
周囲から嘆く視線が溢れる。
魔族が魔王を愛するように、精霊族は精霊王を愛する。
──なんて不自由な世界だ。
そう思ったのは少し離れた位置でその様子を見ている、青みがかった白髪の男だった。
豪奢な壁にもたれかかり、腕を組んで無感動に見つめる。
「まるで茶番だ」
それもとびきりつまらない。
銅貨の欠片もボッタクリだ。
半端ななにかと、してやった見返り。
期待の裏切り。
行動しなかったくせに自分を哀れむくらいなら、殺される為に生まれた少女を哀れめばいいのに。
せっかく逃がしても、こうして運命に呼ばれた命を。
さよならさんかく、またきてしかく。
なくした穴を埋めるカタチがまるだとしたら、尖ったお前が間違いだ。
尖った見返りがないと傷つけるなら、まるくなれやしないのだ。
「……心のカタチの戦争、クソみたいな茶番が始まるぜ」
何者でもなく何も持たず何も残せないが、誰よりもひたむきに愛するカタチ。
対等な地位を得て純粋な愛と理由を持つ、誰よりも正しく相応しいカタチ。
そして血の繋がらない家族を守るために、それを妨げるものを踏みにじる覚悟があるのか。
はじめよう。
──愛情争奪戦だ。
序話 了
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