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序話 またきてしかくい精霊王
03
しおりを挟む一応おままごとの時は俺がお父さんで、アゼルがパパではある。
夜の役割分担では決めていない。
それだとママになってしまうからな。お産の記憶はないぞ。
ただ俺にお産の記憶はなくとも、毎日食事や入浴の介助、文字や常識、雑学の教師をしている記憶はある。
育ての親となった俺としては、当然の心持ちだった。
わしが育てたと言うアレだ。
おっと。
閑話休題だな。
こんな呑気な思考をしながら大量のクッキーを作れるのか? とお思いのお嬢さん。
俺は魔法使いだから大丈夫だ。
チンカラホイと魔法をかける。
「ん、ん、ん~」
鼻歌交じりにトトトトトト……、とテンポよく型を抜き、ベムッ、と余った生地をまとめて、のびーんと伸ばす。
そして再度トトトトトト、と型抜きをする。これを繰り返す。魔力操作をしているので、生地を伸ばすのも素早い。
普通の型抜きで出る音じゃないが、これが魔王城のお菓子屋さんの型抜きだ。
クッキーの型抜き。身体強化魔法をかけて両手でやっているので、一分あれば五十枚分抜けたりする俺だった。
日頃の鍛錬が生きるところである。
ふふん、立派な魔法使いだろう?
「しゃる~? まおちゃんとおんなじ顔してたよ。しゃる褒めてって顔だねっ! よしよししないとっ!」
「んっ? そうか?」
全ての生地をクッキーに変えた俺を呼ぶ声に、キョトンと小首を傾げる。
柵から身を乗り出したタローが声を張り、アゼルに似ていると言って、キャッキャと笑った。
「よしよし」
「よしよしっ」
とりあえず言われたとおり、自分の頭をなでてみる。自分だとあんまり嬉しくはない。
長く一緒にいるとお互いに似てくると言うが、俺はそんなにアゼルに似てきたのだろうか。
(そういえば、ライゼンさんがアゼルは俺に似てきたと言ったことがあったな……)
そう思うと、似ているのかもしれない。
考え方や癖が移ったのかも。
それは結構、嬉しいな。
一緒にいなくても一緒にいる気分だ。
バタン、とオーブンに第一陣を詰め込み、手馴れた操作で稼働させる。
時間が経つと、厨房いっぱいにメープルの甘い香りが満ちるのだ。考えただけでも幸せな瞬間である。
内心でウキウキとしながら、待ち時間の間に洗い物を終わらせようと腕をまくった。
すると遊び場からタローが俺の名を呼んで、手をこまねく。
むむ。おいでおいでをされたら、行くしかないな。
かわいらしいお誘いに、ゆるりと笑いつつ小首を傾げて近付いた。
「どうした?」
「あのね、まおちゃんどうしてつんしに来たのー? お菓子いっしょは、しない? くっきーおいしいよ~?」
「ん? ええとな、アゼルは、ちょっといつもより長い出張に行かないといけなくなった話をしに来たんだ」
「しゅっちょー?」
どうやらタローは、アゼルが帰ってしまったのが不思議だったらしい。
ありのまま答えると、舌っ足らずなオウム返しでキョトンとする。
そうか。大人タイムだから聞こえていなかったな。だからこそ不意打ちの甘噛みなんて、危ういことをされたのだが。
大人の俺でも胸キュンしたので、子どもにあれは刺激的すぎる。
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