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序話 またきてしかくい精霊王

02

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「うお」

 そう考えていると、突然アゼルが手を伸ばし、グイッと俺の腕を引き寄せた。

「っん」

 そしてカプリと唇に噛み付かれる。
 もちろん甘噛みだ。唇の表面を舐められ、すぐに解放される体。

「俺ばっかり惚れさせられんのは、不公平だ。もっとお前も俺に惚れやがれ」

 ふむふむ、なるほど。

 ふん、と鼻を鳴らしへの字口で下から睨むアゼルには、俺の顔が赤いのが見えてないんだろうな。

(……不意打ちの攻撃力、よくわかったぞ)

 ひっそり頬を擦る俺であった。



 その後。俺から返事を貰えたので、アゼルは仕事に戻っていった。

 アゼルは見送りの後だが仕事に行かず、道草を食べにきている状態だったのだ。

 見えない獣耳がしゅーんと垂れて、ちらちら背後を振り返りつつ歩いて行った。

 かっこよかったのが一転。
 かわいいを滲ませるアゼルは魅力たっぷりなので、俺だってちょこちょこ惚れさせられている。

 そういう時は乙女になってしまうから、恥ずかしい。照れてしまう。

 タローは去り際にアゼルに頬をつんとされたので、両腕をブンブンと振り、行ってらっしゃいをしていた。

 それが余計に後ろ髪引かれたんだろう。
 すっかりパパである。

 さてさて。
 アゼルを見習って、俺も仕事を始めよう。

 今日のお菓子は、メープル風味の型抜きクッキー。

 型抜きの型は俺の自作だが、落ち葉や楓やどんぐりとなかなか愛らしい。
 分量を前もって測ってある材料を順に混ぜ、クッキー生地をコネコネだ。

 仕事モードになりながらも、つい先程のアゼルの様子を思い出し口元を緩める。

 最近は取り立ててどうしようもないような出来事が起こらず、こういう穏やかな日々が続いているな。

 平和が当たり前なんだが、俺とアゼルは厄介事ホイホイなので、半年に一回は巻き込まれていたのだ。

 それも近頃はないので、俺は嬉しい。

 特にタローが生まれてからは毎日心が躍り、和やかな空気感に満たされている。

 子どもがいると親はつきっきりなものだから、仕事や生活がままならなくなることもあった。

 初めは食事も付きっきり。今もそうだが、そんな苦労もひっくるめて幸せなのだ。

 けれど考えてみると、タローを拾ってからまだ一年も経っていないことを思い出し、驚く。

 そんなに経っていないのか。
 もっと何年も一緒にいたみたいな気分だ。卵を拾ってからだと、だいたい九ヶ月くらいか。

 タローとの生活はまだたったのそれだけなのに、すっかり俺たちの傍にはタローがいるのが、当たり前になっていた。

 まぁよく考えてみると、俺はアゼルと出会ってうっかりプロポーズまで半年である。スピード婚というものだろう。

 手塩にかけて育てる子どもを愛するようになるのには、十分な時間なのかもしれない。

「これが父親の気持ちか……」

 薄くのばした生地を型抜きでポンポンと抜いて大量生産しつつ、一人頷く。

 俺もアゼルも男なので、両方がお父さんであり、両方がパパなのだ。



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