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序話 またきてしかくい精霊王

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『なぁアゼリディアス……次はうちの城にきてくれないか? 理由は言えないけど、魔界と精霊界の今後に関わることなんだよ。結構大事な問題で、極秘だから漏らしたくない。絶対な。これは精霊族のルールだから質問とかはナシで頼むぜ。心配だと思うし、お前の妃と娘も一緒に連れてきてもいい。歓迎するからさ、な? いいだろ?』

「……って言われた」
「あぁ、なるほど」


 そう告げるアゼルは、精霊王を見送ったその足で俺の厨房にやって来たらしい。

 苦虫を胃袋いっぱい詰め込んだような顔をして、心底嫌そうな様子である。

 ちらりと視線を動かすと、いつも通りお菓子の完成を遊戯スペースで遊んで待っているタローには聞こえていないようだ。

 よかった。
 これは大人の話だな。

 話をまとめると、精霊王はひっそりと精霊界の極秘事項を伝え、魔界からの協力を仰ぎたいらしい。

 それには、アゼルが直接精霊族の城に来てくれるのが一番いい。
 アゼルが来るなら、家族の俺たちも一緒に来ていいということだ。

 アゼルはこの話を聞いて、いの一番に態々厨房までやってきて俺に伝えた。

 そう長い期間じゃないとしても、俺たちと離れているのが我慢ならないのだろう。
 気持ちはわかる。俺だってアゼル不足になってしまうとも。

 ちなみに精霊王たちは、それを伝えたあと今日のところは帰ったそうだ。

 となると、返事をする相手がいないので結局はノーと言えない。

 来てほしいと言われた日取りが三日後だと言うのを考えると、返事は早いほうがいいかな。

 急な誘いだが、それが精霊族のルールと言うものなのかもしれない。

「精霊族は自分たちのルールは曲げねぇ。力で捩じ伏せても、アイツらは従わないんだよ。断固として自分たちのやり方をする。俺に来いと言ったら、もう来る前提で進めてると思う」
「ん。つまりお前が一人で行くか、俺たちと三人揃って行くか……それだけの違いで、行くことは決まっているというわけか」

 正解だったのか、見るからに不満たっぷりで頷かれる。

 本当ならなんとしても拒否したいのに、詳細も知らされず時間もないのが気に食わないんだろう。

 作業台のすぐ傍の窓際で椅子に座り、アゼルは長い脚と腕を組む。

「チッ……こういう時、俺が行きたくないって暴れて戦争したりできねぇのが、王様って立場だ。……だから、なんと言うか、お前も、来い、とか……むぐぐ……」
「? そうだな、王様は大変だな。でも俺も一緒にいるから、少しは力になれるかもだ」
「まだ言ってねぇだろうがッ! そうやって俺を迂闊にオトすなッ!」
「んっ? お、落としてないと思うが」
「当然の様に行ったこともねぇアウェイについて行くって決められたこっちの身にもなりやがれよッ! 無自覚天然タラシめ……! 不意打ち耐性はまだ未熟だぞ俺は……!」

 むむ、困った。
 どのあたりがヒットしたのかわからない。

 思ったことと当たり前のことしかいつも言っていないのに、突然叱られ、俺はうぅんと悩んでしまった。

 だって離れるのは寂しい。
 精霊王が誘ってくれているなら、是非行きたい。

 大人対応を心がけているとは言え不意打ちには未だ弱いアゼルが、ムスッとして俺を睨む。

 頬が少し赤いな。
 不意打ちは強いらしい。どのくらいの攻撃力があるんだろう。



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