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十四皿目 おいでませ精霊王

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 だからこそ特に勝機はないので、俺のほうが気になって、我慢できずに戻ってしまうかもしれない。

(……いや、やはり一旦戻ろうか……?)

 普通に考えるとアゼルは犬ではないので、意味がない筈。

 俺と言うのはいつもこう、どこか抜けている。

 既に残してきたアゼルとタローが心配でそわそわし始めた俺が、部屋へ帰ろうかと振り返った時だ。

 ──ムギュッ、と温かな体温。


「ん?」

「…………」
「しーしてから、ぎゅー! 成功だねっ」


 突然力強い腕にキツく抱き寄せられ、思わず間抜けな返事をした。

 そして嬉しげにふふんと笑う、悪戯っ子めいた幼い声。
 どんどん魔王様に似ていく、愛しの娘の声だ。

 ぼんやりと考え事をしながら外を眺めていたからか、全く背後の気配に気づかなかったぞ。

「アゼル、タロー。大成功だな、気付かなかった」

 肩ごと抱きしめている腕に手を当てて首だけで振り向くと、そこには案の定、素敵な親子。

 グルルと唸りつつ居心地悪そうに不貞腐れたアゼルと、アゼルの肩の上でにへらと得意げに笑うタローがいた。

「ふふふ~でしょ~? まおちゃんがしーして歩いていくからね、私はしゃるの言いつけどーりに、まおちゃんを見てたんだよ! そうしたら肩車してくれた~」
「そうか。偉いぞタロー、ありがとうだ。アゼルは追いかけてきてくれたんだな、嬉しい」
「………べ、別に。俺にどこに行くかを言わないで勝手にどっか行くから、お前が悪い。俺には知る義務があるだけだ。俺が俺だからな、それだけだぜ。寂しくなったわけでも、そわそわしたわけでもねぇ。本当だっ! 手をつないで出勤の約束破りを咎めに来たんだ、馬鹿がっ」
「おっと」

 あんなに引きこもっていたのに、うっかり追いかけてきてしまったのが恥ずかしいらしい。

 アゼルはツンツンと言葉を紡いだ後、返事を返す前に俺の体を片腕で抱え上げ、さっさと部屋に運び始める。

 腕と足がブラブラしているぞ。
 まさか荷物扱いじゃないか?

 けれど俺を抱える腕はぎゅうっと力を込め、決して離すまいとした力強さだから、冗談でも荷物扱いなんて思えないんだけどな。

「ん……ふふふ、本物のわんこさんかもしれない」

 人一倍照れ屋で引きずるくせに、放置されて寂しくなるとつい出てきてしまうなんて。

 俺のワンコな旦那さんはかわいい。

 この対処法は、リューオやライゼンさんにも言っておいたほうがいいかもだ。

 俺の話をたくさんされていた仕返しは、こんなエピソードでもいいだろう?

「グルル……別に俺はお前以外にはうっかり犬系対応化しないし、お前以外なら追いかけたりもしないってこと、いつまで経ってもちっともわかってねぇシャルめ……っ!」
「? まおちゃんわんわん?」
「……アォン」


 十四皿目 完食



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