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十四皿目 おいでませ精霊王

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 現状を理解して出迎えたい俺が思案していると、鳩尾に幼児型ミサイルが直撃する。

 魔物形態のアゼルを見たことがなかったタローは、急にやってきた野生の魔物だと思ったようだ。

 泣きながら俺に突進してしがみついた。
 頭が鳩尾に抉り込んでいる。攻撃に近しい。子ども兵器だな。

「! く、くぅん……っ、わぅぅ」

 そしてそれを見たアゼルが、言葉はわからないが非常に悲し気な様子でしょぼん、と耳を垂らして悲壮感漂う声を上げた。

 というか、来た時からなんだかしょんぼりしていた気がするが……なんでだろう。

 うぅん、仕事でいやなことがあったのかもしれないぞ。大変だ。抱きしめなければ。

「お、落ち着くんだ、大丈夫だぞ、タロー。よーしよーし……っ。あのわんわんはアゼ、」
「ウワォーンっ! くぅ、くぅんっ……!」
「おあぁ……っ!?」

 だがしかし。

 ミサイルに引き続き、モフモフ攻撃が直撃。

 アゼルを気にかけつつもタローを落ち着かせようとあやしたのだが、更にアゼルが遠吠えをして、俺の身体に頬を摺り寄せてきたのだ。

 今のアゼルは、巨大な狼だ。

 その頬擦りたるや、成人男性である俺の上体が大きくぐらつく程で、なんなら弾き飛ばす勢いがあった。

「ヒグッ……!? きゅ、きゅう~~……」
「んっ、あぁっ、タ、タローっ!」

 至近距離で俺が一見して攻撃を受けている光景を直視してしまったタローは、キャパシティを大きく超え、気を失う。

 怪我などはないので大丈夫だが、なんてこったい。

 腕の中で安らかな眠りにつくおやすみ三秒のタローを抱えて途方に暮れるのは、カオスに取り残された正気の俺だ。

 うう、事情がわからない。
 アゼルの言葉もわからない。

(どうしようもないぞ……!)

「アゥォーン……っ、アゥォーン……!」
「あ、アゼル、アゼル待ってくれっ」

 体はトラックレベルのサイズでありながら、やっていることは子犬そのもの。

 広い室内と言え、窮屈だろう。

 おままごとセットを押しのけながら伏せの姿勢で鼻先や頬を寄せてくるアゼルは、悲し気にキューンと鳴く。

 どうやら自分の言葉が通じていないことや、タローに気絶されたことを、大いに悲しんでいるみたいだ。

 みたいだが、そもそも魔物の言葉が人間の俺に通じないという周知の事実は、綺麗さっぱり忘れているらしい。

 結果、俺は誰か翻訳こんにゃくをくれないか、と天へ願いたくなる状態である。

「うお、た、タローをせめてベッドに運ばせてほしい……! う、ちょっと待て、待って……っ」
「ウォンっ……クゥ、くぅん……?」
「う、うん?」

 巨大狼のモフモフスリスリ攻撃に耐えながら、俺はダメ元で腕の中から落とさないように抱えていたタローをベッドに寝かせてあげたいと、伝えてみた。

 するとアゼルは意外にも泣きつくのをやめる。

 そしてタローを闇の魔力でモコモコと包み、この場から少し離れたところにあるベッドまで、フワリと浮かべて運んでくれた。

 ちゃんと上掛けを被せている。

「アゥン?」
「ん、そうだ。よかった……ありがとうな」
「ウゥ。ウォ~……」

 うーん、素直だ。

 褒めてほしそうに伏せの姿勢のまま上目遣いで俺を見つめてくるところも、実に素直だ。

 いつもならそっぽを向くし、いつもならお礼を言われると照れてしまうので、素っ気なくワンと鳴く程度である。

 しかし目の前のアゼルはお礼を言われ、機嫌良さそうにゆるりと尾を振っていた。

 これはいったいどういうことなんだろう?



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