779 / 901
十四皿目 おいでませ精霊王
46
しおりを挟む現状を理解して出迎えたい俺が思案していると、鳩尾に幼児型ミサイルが直撃する。
魔物形態のアゼルを見たことがなかったタローは、急にやってきた野生の魔物だと思ったようだ。
泣きながら俺に突進してしがみついた。
頭が鳩尾に抉り込んでいる。攻撃に近しい。子ども兵器だな。
「! く、くぅん……っ、わぅぅ」
そしてそれを見たアゼルが、言葉はわからないが非常に悲し気な様子でしょぼん、と耳を垂らして悲壮感漂う声を上げた。
というか、来た時からなんだかしょんぼりしていた気がするが……なんでだろう。
うぅん、仕事でいやなことがあったのかもしれないぞ。大変だ。抱きしめなければ。
「お、落ち着くんだ、大丈夫だぞ、タロー。よーしよーし……っ。あのわんわんはアゼ、」
「ウワォーンっ! くぅ、くぅんっ……!」
「おあぁ……っ!?」
だがしかし。
ミサイルに引き続き、モフモフ攻撃が直撃。
アゼルを気にかけつつもタローを落ち着かせようとあやしたのだが、更にアゼルが遠吠えをして、俺の身体に頬を摺り寄せてきたのだ。
今のアゼルは、巨大な狼だ。
その頬擦りたるや、成人男性である俺の上体が大きくぐらつく程で、なんなら弾き飛ばす勢いがあった。
「ヒグッ……!? きゅ、きゅう~~……」
「んっ、あぁっ、タ、タローっ!」
至近距離で俺が一見して攻撃を受けている光景を直視してしまったタローは、キャパシティを大きく超え、気を失う。
怪我などはないので大丈夫だが、なんてこったい。
腕の中で安らかな眠りにつくおやすみ三秒のタローを抱えて途方に暮れるのは、カオスに取り残された正気の俺だ。
うう、事情がわからない。
アゼルの言葉もわからない。
(どうしようもないぞ……!)
「アゥォーン……っ、アゥォーン……!」
「あ、アゼル、アゼル待ってくれっ」
体はトラックレベルのサイズでありながら、やっていることは子犬そのもの。
広い室内と言え、窮屈だろう。
おままごとセットを押しのけながら伏せの姿勢で鼻先や頬を寄せてくるアゼルは、悲し気にキューンと鳴く。
どうやら自分の言葉が通じていないことや、タローに気絶されたことを、大いに悲しんでいるみたいだ。
みたいだが、そもそも魔物の言葉が人間の俺に通じないという周知の事実は、綺麗さっぱり忘れているらしい。
結果、俺は誰か翻訳こんにゃくをくれないか、と天へ願いたくなる状態である。
「うお、た、タローをせめてベッドに運ばせてほしい……! う、ちょっと待て、待って……っ」
「ウォンっ……クゥ、くぅん……?」
「う、うん?」
巨大狼のモフモフスリスリ攻撃に耐えながら、俺はダメ元で腕の中から落とさないように抱えていたタローをベッドに寝かせてあげたいと、伝えてみた。
するとアゼルは意外にも泣きつくのをやめる。
そしてタローを闇の魔力でモコモコと包み、この場から少し離れたところにあるベッドまで、フワリと浮かべて運んでくれた。
ちゃんと上掛けを被せている。
「アゥン?」
「ん、そうだ。よかった……ありがとうな」
「ウゥ。ウォ~……」
うーん、素直だ。
褒めてほしそうに伏せの姿勢のまま上目遣いで俺を見つめてくるところも、実に素直だ。
いつもならそっぽを向くし、いつもならお礼を言われると照れてしまうので、素っ気なくワンと鳴く程度である。
しかし目の前のアゼルはお礼を言われ、機嫌良さそうにゆるりと尾を振っていた。
これはいったいどういうことなんだろう?
30
お気に入りに追加
2,666
あなたにおすすめの小説
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
変態村♂〜俺、やられます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。
そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。
暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。
必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。
その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。
果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
兄2人からどうにかして処女を守りたいけどどうしたものか
たかし
BL
完璧イケメンの兄×2に処女を狙われてるんですけど、回避する方法を誰か知りませんかね?!
親同士の再婚で義兄弟になるとかいうありがちなストーリーのせいで、迫る変態完璧兄貴2人と男前で口の悪い弟のケツ穴攻防戦が今、始まる___________
まぁ、ざっくり言ってコメディです
多分エロも入ります。多分てか絶対。
題名からしてもう頭悪いよね。
ちょっとしてからエロが加速し始めるんじゃないかな(適当)
あ、リクエストかなんかあればどうぞ〜
採用するかはなんとも言えません(笑)
最後にカメ更新宣言しときます( ✌︎'ω')✌︎
*追記*
めちゃくちゃギャグテイストです。
キャラがふわふわしとるわ。
なんか…その……あの、じわじわ開発されてく感じ。うん。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜
ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。
短編用に登場人物紹介を追加します。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
あらすじ
前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。
20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。
そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。
普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。
そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか??
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。
前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。
文章能力が低いので読みにくかったらすみません。
※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました!
本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる