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十四皿目 おいでませ精霊王
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しおりを挟むけれどすぐに腰に手を当てて、タローの正面で正座する俺に、ふふんと胸を張ってみせる。
「こんなのじゃ足りないぜ~っ? もっといっぱいあまやかすっ。おとうさんは、今度はあーんして~。今日のご飯はなにかなっ?」
「あははっ、足りないか。それじゃあ仕方ない。あーんもしよう」
「へへ、べつにうれしくなんかないぜっ。しかたないから、されてあげるの~」
「そうかそうか。今日のご飯はな、どんぐりご飯だ。はい、パパ。あーん」
「うむ、あーんなんだよ!」
どうやら、ハグだけでは足りない、という時の旦那さんのパターンらしい。
食卓の前であーんと口を開ける旦那さんに、お椀に入れたどんぐりをスプーンですくうフリをして、手ずから食べさせた。
タローはもぐもぐと食べるふりをする。
そして胡座をかいてむすっとして見せてから「むふふ~悪くなーい!」と笑った。
そう。お察しのとおり──タローはアゼルの真似をしているのだ。
両方が男である俺たち夫夫に育てられているタローにとって、お母さんは馴染みがない。
なのでおままごとではいつもアゼル役の〝パパ〟か、俺役の〝お父さん〟。たまにタロー。
ライゼンさんをママと認識しているのは、俺たちがライゼンさんをママゼンさん扱いをしているからだった。
基本的に、タローのおままごとではお母さんがいないのである。
それについて、本当は思うところがあるのかもしれない。
女性があまりいない魔王城で暮らしているので、今まで「どうしてお母さんじゃないのか」と言う疑問を口にされたことは、なかった。
(いつかそれを聞かれたらどう答えようか……ん、その時に思っているとおりに言うしかないけどな)
タローは卵を拾った俺たちとは血のつながりがないし、種族も違う。
俺もアゼルも父親にしかなれないのだ。
だが、それでもタローを愛しているという家族の愛は、本物。
それは紛れもない事実だからな。
そう言って笑おう。
楽しそうにおままごとをするタローに笑顔で付き合いながら、俺は将来の可能性をのんびりと考えていた。
楽観的な思考回路だが、事実楽観的なことである。
タローがグレて俺とアゼルに〝パパもお父さんも家族じゃない〟と言ったとして、俺とアゼルは二人丸く抱き合って夜泣きするだろうが、それでも毎日同じことを言い続ける。
だから些末な問題なのだ。
俺とアゼルは世論のチャチャには一等強い波乱万丈夫夫だからな。ふふん。
内心で俺が胸を張った、その時だ。
部屋の扉が──バァンッ! と大きな音を立てて開いたのは。
「んっ?」
「うひゃっ!?」
「──ゥアオーンッ!」
夜更けというほど更けてはいないが、時間で言うと夜の八時前くらいの現在。
突然扉を弾くように開けてやってきた来訪者は、高らかに吠え声を上げ、後ろ足で扉をバァンッ! と乱暴に閉めた。
お行儀がよくない、というお叱りをすることもできずに、俺は数度瞬きを繰り返す。
なんというか、その、なんだ。
思わず悲鳴を上げたタローと、ビクッと肩を跳ねさせた俺の視線の先には、巨大な黒い狼が立ちはだかっていた。
澄んだ真っ赤な瞳に、濃黒の毛皮に赤黒く染まった足元。
見覚えのあるその巨狼は言わずもがな──第三形態の魔物スタイルな旦那さん、アゼルそのものだったのだ。
(え、ええと……ネ×バス的な急ぎの移動手段、だったのか……?)
「う、うわぁぁぁんッ!? わんわんッわんわんきたぁぁこわいよぉしゃるぅぅぅっ!」
「ぐふっ!」
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