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十四皿目 おいでませ精霊王
43(sideアゼル)
しおりを挟む「…………」
「え、ええと? どした、急に立ち上がって。なんかお前、目が据わってるぞ~……?」
「……この水、まずい……」
「おお、反応した。ってあはは、それはワインだぜ」
「うぇ……?」
「白ワインだから気付かなかったのかぁ? いい飲みっぷりだったな~」
「ぐ……水、水……」
俺にはアマダが笑いながら言う言葉の意味が、わからなかった。
手をふらりと動かして、テーブルの上から今度こそ透明なボトルを発見し、直接中の水を飲む。
水で頭を冷やして、大人の俺。
おとなの、んんん。まずい、なんだこれ。
「は……不味い。なんでだ?」
ドン、とテーブルに空のボトルを置いて、首を傾げた。なんでか不味い。
(あぁ、なんだよ、ンン……アマダはこの水を、白ワインって言ってたなぁ……)
俺の顔色が本人の知らないうちに、じわりじわりと真っ赤に染っていった。
白ワインってのは、シャルの大好きな水だ。
シャルと一緒にデートで飲んだアレは、飛び切り甘くてうまかった。
シャルがだめだって言っていたけど、ワガママを言うと、許してくれた。
シャルを見ていると、白ワインはうまかったぜ。シャルの唇と同じ味がした。
なのにコレは、どうも不味い。
キョロキョロとあたりを見回す。
シャルがいねぇ。どこに隠れやがった? だから白ワインは不味かったのか。ふぅん。
白ワインが不味い理由を理解した途端──しょぼん、と眉が垂れるのが自分でもわかった。
それはそれは情けない、拗ねきった表情だ。
「か、帰る……」
「えっ?」
「シャルが俺以外に好かれた。だめなのにっ、お、おれのなのに、ふっうぇ……っ」
シャル以外の前で泣いたりしないが、泣きそうになってしまう。
そして室内ということを考えずに最速で移動する為、第三形態の大きな狼の姿になった。
バリアフリーな魔王城と言えども、俺のこの姿だとかなり道幅はギッチリだ。
ドンッ、と床を鳴らして立つ俺は、情けなくアォンと鳴く。
「えっ」
『しゃ、しゃるぅ……っ』
「えっ!?」
接待なんて頭の中から追い出し、俺は扉をバァンッ! と弾き飛ばして、廊下に躍り出た。
シャル、シャル。
お前がいないと白ワインは不味かった。
うう、俺を待ってる約束覚えてるか?
寝ていたら、怒るぞ。しがみついて離さないからな。
(たくさんなでて俺を褒めてくれないと、絶対許さないからな……っ!)
『うう、うぅ、うぅ~……っ!』
言葉にならない甘えた声を上げて、酩酊状態の俺はキャットの飛びつきを上書きするべく、疾走する。
兎に角愛するシャルに飛びつく為に、無人の廊下を走り抜けたのだった。
「…………ハッ、またジズについて聞けてませんよぉ~……! 協力要請もまだですっ!」
「それより物凄いもの見たショックが、酷い……こんな時どんな顔をすればいいのか、わからないなぁ……」
「笑えばいいと思うのですっ」
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