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十四皿目 おいでませ精霊王
42(sideアゼル)
しおりを挟むキャットが誰と所帯を持とうが、アイツの選んだ相手なら見どころのあるやつに決まっている。
いちいち反応することじゃない。
食堂のメニューに赤飯を追加してやろう。
だからさっさとデザートが来て終われ、と切に願う俺は、死んだ魚のような目で淡々とアマダをあしらう。
──だが。
「北の建物の最上階だったかな。部屋の中でキャットがな? 黒髪の人間みたいな男に飛びかかりながら、好きです付き合ってくださいーって、叫んでた」
「へぇ。…………あ?」
アマダが世間話を語るそれがどうにも引っかかり──俺は途端に目に光を宿し、眼光を鋭くした。
(北側の建物の、最上階……だと……?)
コクリと黙り込み、思考回路を高速回転させる。おかしい。
なんの間違いか、俺の部屋はそこだ。
俺の部屋はシャルの部屋だ。
そのシャルの部屋で、アマダはキャットの告白現場を目撃した。
しかも黒髪の人間っぽい男が相手。
魔力を感知できない精霊族から見れば、人間と一見人間に見える俺のような魔族の区別は、つかない。
まず、俺は今日キャットが訪ねてくるなんて聞いてねぇぞ。
シャルは予定にあれば教えてくれる。
つまり突然の来訪。
カチャカチャと俺の頭の中でスピーディに計算式が組み上がっていく。
俺の存在を知っているプラス、勢いの告白、イコール抑えられない好意。
結果、しゃにむに飛びかかる空軍。
なんだ。俺と殺り合いたいのか、アイツ。へぇ、いいぜ。殺るか。
「魔族の恋愛は戦争だ。勝てばいい。俺から奪おうってなら、俺と殺し合いだな」
「え? あれ、えっと、おーい。アゼリディアス? 恐怖状態異常入るから、その目やめろよ~? どうしたんだ?」
「ククク、部下を血祭りに上げて真剣な話し合いをしなければいけない事実を、嘆いてんだよ。返事がどうこうじゃねぇ。俺のいない時を狙ってきたあたりが、喧嘩上等だと見たぜ。俺はな……」
「う、うん?」
キョトンと首を傾げるアマダに、まともな返事をする余裕もなかった。
今はとにかくシャルにことの次第を聴取し、場合によっては空軍の晩ご飯に突撃を決行しなければならないのだ。
シャルは俺からキャットになんの相談もなく乗り換えたりしないという確信がある。
なので、キャットはお断りをされたはずだ。
お断りされても諦めがついてなければ、話し合いをするぜ。物理的にな。
動揺を隠しきれないまま震える手でテーブルの上のグラスを取り、一息を入れて落ち着こうと、中身を一気に煽る。
せっかく俺は嫉妬やらなにやらを大人対応できるようになってきたのに、まさかの伏兵だ。
ここで勢いに乗ってシャルに詰め寄るのは、だめに、きま、…………ん?
これ、水か? にしては苦い……気がする、なぁ~……。
「…………」
ゴン、とテーブルにグラスを置き、俺はぐらつく視界で立ち上がった。
シャルのところへ行かねばならないのだが、どうも、ふわふわ。ふわふわと、んん。
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