本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
上 下
772 / 901
十四皿目 おいでませ精霊王

39(sideアゼル)

しおりを挟む

 前書き

 大変申し訳ございません(土下座)
 予約をしたと思っていたのにしていませんでしたぜ。木樫のアンポンタン。廊下に立つくらいじゃすまされないミス……!
 お騒がせして申し訳ございませんでした。

 木樫

 ─────────



 ──同日・夜。

 本来ならば、仕事が終わればシャルとタローの待つ自室へ帰るのが、俺だ。

 だがしかし、今夜ばかりはそうもいかない。

 理由はもちろん、精霊界からの来賓をもてなす接待ディナーのためである。

 来賓との晩餐や食事をしながらの会合で使う食堂を舞台に、俺は落ち着かない食事を行う。

 相対するのは魔王である俺と、精霊王であるアマダに、司祭であるルノ。

 二十人は座れるゴシック様式のテーブルは繊細な細工が施されていて、見るものを感嘆させる。

 飾り付けられたテーブルへ、接待ディナーの開始と共に従魔が次々と料理を運んできた。

 コースメニューはこちら。

 前菜にラグランのオススメオードブル。
 これは外れなし。

 サラダは季節の野菜盛り合わせ、温玉添え。温玉は一般的な両手サイズの魔界の鶏卵、基コカトリスの卵だ。黄身が濃厚で美味。

 それらを平らげると、次に巨大毒サソリのグリルがドン、と各人の前へ登場する。

 とろりと蕩けるチーズにホワイトソースが絡み合い、巨大毒サソリの旨みが引き立つのだ。

 付け合せには魚介ダシで調和されたポテトグラタンが添えられていて、食欲を唆る。

 もちろんサソリは殻ごと齧るのが魔族流。

 これについては嫁エピソードがある。

 毎度恒例となりつつある、誰にともしれない者に語る俺の脳内シャル語りは、盛り上がった。

 まあ聞け。俺のために聞け。

 つまらない接待より、ずっと脳内が彩るぜ。ゴホン。

 前にディナーで毒サソリが出て、俺が齧って食うのだと教えた時のこと。

 知らなかったらしいシャルは感嘆しながら毒サソリを掴み、齧る。

 すると当たり前のように貧弱脆弱惰弱のトリプル弱種族なので、殻で口の中を切ってしまった。

 ちょっと考えればわかることなのに、シャルはシャルなもんだから、止めるより先に齧りやがったんだ。

 タローの分は初めにシャルが別皿に中身をわけていてよかったぜ。

 でなきゃ真似したがりのタローは、父と同じように齧りついただろう。

 俺は本来の姿ならぶわっと毛皮を逆立てていただろう程、肝が冷えた。

 シャルが血を出したのだ。
 慌てずにはいられない。

 狼狽した俺はシャルの顎を掴んで、口の中に指を突っ込む羽目になる。

 やましい気持ちはない。
 純粋に咄嗟の行動だ。

 シャルは具合は上顎に小さな傷がついた程度だったが、それでも許せない。

 迂闊なシャルを叱りながら、つい普段の癖で傷を舐めようと、思いっきり舌を突っ込んでキスをしてしまった。

 まあこれは止む終えない事情だ。無罪放免だ。

 問題点は子どもの前だという部分だろうが、俺は王様なので知ったこっちゃない。

 途中でこれは大義名分を得たな、と確信を持ってもいない。

 ふふん、日頃の行いだな。

 その時のシャルは流石と言うかなんと言うか、テーブルの傍にあった食器を片付ける台車から丸い盆を取る。

 そして素早く自分と俺の間くらいに添えて、教育的ガードをしていた。

 絶対に見せないと言う頑なな意志を感じる。



しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...