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十四皿目 おいでませ精霊王
39(sideアゼル)
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大変申し訳ございません(土下座)
予約をしたと思っていたのにしていませんでしたぜ。木樫のアンポンタン。廊下に立つくらいじゃすまされないミス……!
お騒がせして申し訳ございませんでした。
木樫
─────────
──同日・夜。
本来ならば、仕事が終わればシャルとタローの待つ自室へ帰るのが、俺だ。
だがしかし、今夜ばかりはそうもいかない。
理由はもちろん、精霊界からの来賓をもてなす接待ディナーのためである。
来賓との晩餐や食事をしながらの会合で使う食堂を舞台に、俺は落ち着かない食事を行う。
相対するのは魔王である俺と、精霊王であるアマダに、司祭であるルノ。
二十人は座れるゴシック様式のテーブルは繊細な細工が施されていて、見るものを感嘆させる。
飾り付けられたテーブルへ、接待ディナーの開始と共に従魔が次々と料理を運んできた。
コースメニューはこちら。
前菜にラグランのオススメオードブル。
これは外れなし。
サラダは季節の野菜盛り合わせ、温玉添え。温玉は一般的な両手サイズの魔界の鶏卵、基コカトリスの卵だ。黄身が濃厚で美味。
それらを平らげると、次に巨大毒サソリのグリルがドン、と各人の前へ登場する。
とろりと蕩けるチーズにホワイトソースが絡み合い、巨大毒サソリの旨みが引き立つのだ。
付け合せには魚介ダシで調和されたポテトグラタンが添えられていて、食欲を唆る。
もちろんサソリは殻ごと齧るのが魔族流。
これについては嫁エピソードがある。
毎度恒例となりつつある、誰にともしれない者に語る俺の脳内シャル語りは、盛り上がった。
まあ聞け。俺のために聞け。
つまらない接待より、ずっと脳内が彩るぜ。ゴホン。
前にディナーで毒サソリが出て、俺が齧って食うのだと教えた時のこと。
知らなかったらしいシャルは感嘆しながら毒サソリを掴み、齧る。
すると当たり前のように貧弱脆弱惰弱のトリプル弱種族なので、殻で口の中を切ってしまった。
ちょっと考えればわかることなのに、シャルはシャルなもんだから、止めるより先に齧りやがったんだ。
タローの分は初めにシャルが別皿に中身をわけていてよかったぜ。
でなきゃ真似したがりのタローは、父と同じように齧りついただろう。
俺は本来の姿ならぶわっと毛皮を逆立てていただろう程、肝が冷えた。
シャルが血を出したのだ。
慌てずにはいられない。
狼狽した俺はシャルの顎を掴んで、口の中に指を突っ込む羽目になる。
やましい気持ちはない。
純粋に咄嗟の行動だ。
シャルは具合は上顎に小さな傷がついた程度だったが、それでも許せない。
迂闊なシャルを叱りながら、つい普段の癖で傷を舐めようと、思いっきり舌を突っ込んでキスをしてしまった。
まあこれは止む終えない事情だ。無罪放免だ。
問題点は子どもの前だという部分だろうが、俺は王様なので知ったこっちゃない。
途中でこれは大義名分を得たな、と確信を持ってもいない。
ふふん、日頃の行いだな。
その時のシャルは流石と言うかなんと言うか、テーブルの傍にあった食器を片付ける台車から丸い盆を取る。
そして素早く自分と俺の間くらいに添えて、教育的ガードをしていた。
絶対に見せないと言う頑なな意志を感じる。
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