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十四皿目 おいでませ精霊王
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しおりを挟む人型に戻ってキャットの拘束から解放されたゼオが、リューオに無言で片手を上げている。
(おぉぉ……め、珍しい。褒めているぞ、あれは……)
陸軍長補佐官の褒め対応なんてプレミアじゃないか。
上官に褒められたリューオは鬼のような形相でキャットを威嚇しつつも、片手を上げて答えていた。
リューオとゼオは仲がいいのか?
仲がいいのはいいことだ。素敵だな。
そうして少し和んでしまったが、すぐにハッと我に返った。
いけない。それよりもキャットが起き上がらないから、助けに行かねば。
怪我をしているかもと慌てた俺は急いで結界を解除し、キャットに駆け寄ろうと足を踏み出した。
──が。デジャブ。
「情操教育に適してねェ発言はテメェが事前に止めやがれお父さんよォッ!」
「あうっ」
いつの間にやら目の前にやって来て仁王立ちで立ちはだかっていたリューオが、パシコンッ! と素早く俺の頭を叩いたのだ。
うう、いい音が鳴ってしまった。
どうして俺は怒られてしまったんだろう。
ちなみに慣れているから特に怒っても悲しんでもいないぞ。大丈夫だ。勇者コンビは仲良しだ。
しかしながら頭の上に疑問符を浮かべて首を傾げる俺は、リューオの肩の上に乗っている娘を見て、合点がいった。
「がおがお、めっ! なんでしゃるぱぱ、めってするのっ! たろー怒るよ! 好きな人を傷つけた奴はなにがなんでもぶちかますっ、まおちゃんいってたのーっ! あむ、あむあむっ」
「おーおー盛大にべちゃべちゃにしてくれてンなァ、タロー。でもシャルパパがいけないんだぜ? 後なに幼児に魔王理論教え込んでんだよ。お前ら二人のその敵認定した奴を絶対許さない精神、すでに教育済みかよ。これだからクソマジメ天然バカ野郎と、クソ過激派親バカキングの子育てはよォ……ッ!」
リューオの髪をかじってなにやら怒りつつ攻撃をしているらしい、かわいすぎて毎日愛おしいタローは、近頃繊細なお年頃。
タローの情操教育的に、キャットの〝抱かれたい発言〟は確かによろしくなかった。お父さんショックだ。
「ぐう、非常に面目ない……! タロー、怒ってくれてありがとうな。けれど俺が迂闊だったから髪を噛むのはよしてくれないか?」
「ふむぅ?」
「俺が子どもをリューオに任せて友人に構いっきりになり、挙句の果てに好きな人の好きだった人が相談相手と言う泥沼寸前で、子供に聴かせるには些か過激な発言を許してしまい……」
「だァかァらァ! 子供相手に発言がマジメすぎるんだよバァァァカッ! もう、もうバァァァァカッ! シャルバァァァァカッ!」
リューオの髪をかじって首を傾げるタローに真剣に謝罪をする俺を、リューオが全力でバカ呼ばわりする。
地面で丸くなるキャットはやる気に満ちているし、ゼオはさっさと帰っていく惨状。
──この日の出来事を後日、リューオはユリスにこう語った。
「俺とお前と宰相以外ほぼ全員ボケって魔王城ツッコミにブラックすぎんだろ」と。
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