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十四皿目 おいでませ精霊王
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しおりを挟む「あんたに言ってるんだ。わかったか」
「ふ、でもっ」
「いちいちうじうじするな。諦めるか諦めないか、今この場で決めろ」
「ッ……!」
唯一縋り付く場所にしていた俺の膝から引き離されたキャットは、選択を強いる言葉に肩を震わせた。
「あんたのような、自分が持つ〝望みがないかもしれないのに諦められない〟って言う気持ちにも誠実になる馬鹿な人は、問題を先送りにしたら、一生こじらせる。そのたびに泣かれたり気を使うのは、めんどくさい。だから今すぐ決めて、それを貫け。迷ったら諦めるな。自分を慰めるのに手いっぱいなら諦めろ。いいな」
「っひぅ……」
けれどキャットがぐずるより先に、ゼオは睨むでもなんでもなくじっと見つめながら、淡々と決定事項を告げる。
同じくフラれたての傷心タイムなはずなのに、ゼオらしい言い分だ。
なんの遠慮もない、冷たすぎる言い分。
キャットが強くブレない彼をかっこいいと尊敬する所以がそこでも、見ているとやっぱり辛くなる。
だけど、キャットはゼオがすっぱりと切り捨てたのに、諦められないともがいていた。
そんなキャットがこうして落ち込んだままだと、彼の言うとおり、キャットは前にも後ろにも動けなくなるだろう。
そんな素振りが一切なかったし、しそうにない男が、誰かに恋をした。
まさかその相手が俺だったなんて目の前で言われれば、キャットは余計にダメージが大きい。
自分から強請ったからとは言え、酷な事実。
そういうものを理解した上で容赦なく突きつけられるのも、ゼオの強さだと思う。
「う、ううっ、うっ」
「…………」
「うっ!」
したくない決断を強いられたキャットは、当然まためそめそと泣きそうになる。
しかしそうするとゼオが冷気を纏わせ始めたので、必死に涙を拭って我慢した。
キャットの顎に、梅干のようなシワができているぞ。
泣くのを我慢するタローと同じだ。
キャットは感情豊かだからな。
「っ、う、あ、諦められま、せん……っ! でも、俺は師匠みたいにかっこよく、なれな……っ、うぅ……どうし、ゼ、ゼオさ……っ」
「…………じゃあ、こうしましょう。俺は面倒なことを言う、する人は嫌いなんです」
どちらも選べず、現状も辛いキャットがごねると、ゼオはそう言って地面に手をかざす。
「──氷、固定」
「あ……ッ!」
途端、キャットはパキパキッ、と氷と共に地面に縫い付けられてしまった。
三人そろって地面にしゃがみこんでいたので、ゼオが魔法を使い、キャットの足元を凍らせたのが俺にもよく見える。
(こ、これじゃあキャットは動けないぞ……?)
危険だろうかと俺が焦ってゼオを見ると、ゼオは俺の視線を読み取り、「キャット副官が形態変化すれば無理矢理はがせる程度の強度しかないですよ」と説明した。
ホッと胸をなでおろす。
よかった。攻撃したわけじゃないんだな。
ゼオは理不尽に攻撃したりしないから、突然過ぎて驚いてしまった。
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