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十四皿目 おいでませ精霊王

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「突然のハートフル。もうお前らほんといつも自由だなチクショウ。俺一人で魔王城のツッコミを賄いきれねぇ……ッ! 急募! ツッコミ! 時給銀貨三枚、俺のポケットマネー! 日本円で三千円! 破格!」
「はかく! はかく? がおがおあそぼー!」
「遊んでやらァッ!!」

 破格の時給を叫んだリューオはタローを抱えて、キレ気味にグラウンドへ走り出してしまった。

 おおう、なんという高時給。

 俺がアルバイトをしていた時は、時給が基本的に都道府県の最低賃金だった。

 なのにその何倍ものお値段じゃないか。
 太っ腹だな、リューオ。

 二人の背中を見つめながら、ふむと頷く。

 ちなみに基本的に休みの日が十一時間労働の休憩一時間で、残業がデフォルトなバイト先だったぞ。

 お察しのとおり、飲食店である。
 俺は根っから社畜なのだ。

「……いないよりはいるほうがマシな人員が、そろって逃げやがったな……。俺、仕事終わったのになんでこんな……そういうのって、宰相様のポジションでしょうに」

 走っていく二人をにこやかに見送っていると、隣に立つゼオがこの状況を嘆く。

(う、そうだな……仕事終わりで告白タイムに入られたゼオは、さぞ迷惑だろうな……。でも、キャットも覚悟を決めたんだ。それはなんとか、聞いてほしいな……)

 ゼオの気持ちも言い分も尤もだが、セコンドの俺は選手贔屓だ。

 よしっと気合を入れた俺は、ゼオの頬を両手で掴んで、ぐっと自分に顔を近づけた。

 ゼオの目が、大きく見開かれる。

 ん? 珍しいな、無表情を崩すなんて。これもわざとなのか?

「こうやって目を合わせて、好感度検査をしようと思う。仕切り直し、してもいいか?」
「あー……これ、誰の好感度検査ですか。軽率マヌケ男」
「師匠! それは師匠! いかな俺と言えども、難易度が高すぎるぞ! そ、そんな破廉恥な検査をこの冷血無慈悲なおたんこ茄子にできるものか! 俺の手が、手がくさっ、腐るぅ!」
(意訳:近い)
「んっ? そ、そうか。俺が検査しても、意味がないのだった」

 大好きなゼオに俺が至近距離で触れてしまい、キャットが待ったをかける。

 引き剥がすために飛びかかってきた彼を抱き止め、このうっかりな行動を反省した。

 なで癖のある俺は、いつも親しい人と距離が近くなってしまうのが、よくないな。

 できれば今のやり取りは、アゼルには内緒にしてほしい。

 絶対に今夜も寝られなくなる。
 アゼルは俺が誰かに触るだけでもヤキモチを妬く、お触りダメダメ系魔王様なのだ。

 さて、仕切り直してテイクツー。

 俺に抱きついていたキャットは、顔や態度こそ、高圧的な悪い癖が出ている。

 けれど俺の服の裾を握りしめているあたり、純情で乙女な部分が滲み出ていた。

 そのかわいさがゼオには伝わっていないのが、悔やまれるな。

 当のゼオは一体全体なにが始まるんだと、完全に無の状態になっていた。

 別名諦めとも言う。
 ジーっとキャットに見つめられるゼオ。

 ゼオを見つめるキャット。
 見つめるキャットは、徐々に頬が赤くなっていっている。

 それを戦々恐々としながら、俺はゴクリとつばを飲み見ていた。



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