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十四皿目 おいでませ精霊王

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 微笑ましい俺は思わずクスクスと笑ってしまい、キャットは肩をすくめて、照れ臭そうに頬を掻いた。

「うぅ……シャ、シャル様は魔王様たちに尻込みしたりしないんですか? 俺はどうしてもクールだったり威圧感があったり見かけが怖い人に緊張してしまいますし……。……その、なんというか……す、好きな人には特にドキドキしてしまいますので……!」
「うん? もちろん物凄くしたな。今もする。俺は臆病だからな……怖い人には緊張するし、アゼルに嫌われるかもしれないと思うと、狼狽してしまうぞ。好きな人には、ずっと好かれていたいに決まってるじゃないか」
「ええっ!? いやそれならあまりにも行動に出なさすぎると思いますよ……!?」

 むむ。失敬な。
 俺のどこがメンタル強者に見えるんだ。

 本当のことを言ったのに驚かれてしまったので、俺は腕を組んでキョトンと首を傾げた。

 ほら、見るからに弱々しいだろう?
 人間だからな。

 弱々しい俺なので顔にも結構出ているし、行動にも出ていると思う。

 魔界に来てから、不貞腐れ気味だった表情筋が素直になったんだ。

 アゼルの全力が伝染したらしい。
 ふふふ、いいことだな。

「だ、だって! マンネリ疑惑で首に腕を回してベッドにドーンした挙句、意図しないプロポーズをキメて十時間耐久レースのシャル様が、俺みたいな骨なしチキンの心境を持つんですかっ? こんがり焼けてもいませんよ!」
「ふふん。俺はもっとふにゃふにゃの怖がりさんだ。鶏皮だ。カラッと揚がってすらない」

 ありえないありえないと首を振って迫るキャットに、俺は胸を張ってミスターチキンを自称する。

 最強の魔王様であるアゼルだってキングオブチキンなので、恋に関することなら男はみなチキンなのだ。

「あぁ、それから十時間耐久レースはアゼルの圧勝で、俺の意識はなかった。少し前に気づいたんだけどな……アゼルはどうやら、魔界でも変態寄りみたいなんだ」
「はい! それは存じ上げております!」
「なん……だと……?」

 ニコニコと明かされた衝撃の事実発覚に、俺は思わず目を丸くする。

 アゼルに恥ずかしさを知らしめようとした意地の悪い仕返しのはずが、なんてこったい。

 既に変態具合が知られていた、驚きのパターンだ。

 聞いていないぞ。
 また負けてしまったじゃないか。うぅ。

 驚く俺を見つめるキャットは訳知り顔でうんうんと頷き、ニコーっとタローを彷彿とさせる子犬のような笑顔を見せる。

 これは……嫌な予感だ。

「ご安心ください! 魔王様はシャル様が大変に愛しくてらっしゃるので、機会があればお話をしてくださるって言ったでしょう? お聞かせいただいたお話から滲み出るモノがありますので、我ら幹部は大方お察しフェイスで把握済みです!」
「くっ……! やはりかっ、悔しいぞ……! 結局俺ばっかり恥ずかしいじゃないか、アゼルめ……!」

 それみたことか。
 やっぱり嫌な予感は的中だ。

 イイ笑顔で親指を立てられた俺は、へにょっと悔しさからテーブルに額を預け、すぐにガバッ! と起き上がる。



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