上 下
741 / 901
十四皿目 おいでませ精霊王

08(sideアゼル)

しおりを挟む


 シャルにはいちいち言わなかったが、俺がコイツと会うと若干微妙な心持ちになるのは、こう言う距離感の近さがあるからだ。

 人懐こいもぎたてフレッシュななにかしらって感じのアマダは、いつもこう。

 ツンと澄ました俺を和ませようと、こうやってセクハラやらで距離を詰めてくる。

 特に害のある行動は取らない。
 基本は部下に任せっぱなしだしな。

 メンリヴァーのように気取ってもないし、魔族を蔑んだりもしない。まぁ普通の王。

 だから嫌いじゃねえけど、シャルに言って万が一にも不安になったら死ねるだろうが。

 コイツのことだ。
 シャルの前でも普通にこうやって絡んできやがるだろう。

 良心の煮凝りなアイツとは言え、流石にそれはまずい。

 目の前で知らない男と親密な態度を取られると、多少なりともしょげてしまう。断固阻止。

 軽くアマダの手を振り払うと、パシャッと水を叩く音がして弾けた。

 けれどすぐに元通りになり、アマダは肩をすくめて緊張しっぱなしのルノの隣に収まる。

「お前は面倒くせぇ男だな……挨拶だけで遊ぶな。今日は全身全霊でサクサク終わらせろ」
「あはは、はいよ。ごめんな~。ルノ、書類渡してくれるか?」
「はひっ!」

 降参のポーズを取るアマダが命じると、ルノは返事を噛みながら背負っていたカバンを開き、綺麗に丸められた紙束を取り出す。

 ライゼンが静かに進み出て、それを受け取った。

 ルノとアマダに礼をしてから、踵を返して開いた書類を俺に手渡す。

 そこにはいつも通りの前口上と、貿易や観光についての取引関係の報告。

 そして霊界の恒例行事や年度ごとの儀式についての出欠や説明が記されていた。

 それらにザッと目を通して、精霊王相手だろうが普段の謁見と変わらず、仕事モードで言葉を交わす。

 さて、俺の嫌いな政治の話だ。

「魔石の輸入制限、二十パーセント緩和」
「冗談だろ? 五で勘弁してほしいな」
「ハッ、ふざけろ。プラス魔界での精霊石輸入制限五パーセントダウン」
「んー、十。だから精霊石十にしてくれ」
「嫌だ。十八パーセントプラス、精霊石十」
「まじか………ノッた」
「ライゼン」
「はい、心得ております。精霊王様、契約書をどうぞ」

 短いジャブで殴り合う外交。
 無駄な言葉はいらないし持っていない。

 書記を兼ねているライゼンがフワリと契約書を飛ばすと、アマダは奇術の様に手首を反してペンを取り出し署名する。

 どうも不穏分子がいる気配を感じるらしい霊界の困り事。

 その解決になにかあれば魔界が多少助力する契約は、これで完結だ。

 王家側が内戦の協力を他国に頼むは、ままあることだった。表面的なものだけだ。

 それも魔界を除いては、だけどな。

 俺は人質がいなければ、勝てなくても十中八九負けねぇ。

 魔王が死ぬ時は、魔界という国の歴史の終わりだ。



しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

処理中です...