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十四皿目 おいでませ精霊王

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「っん、いいだろう? 愛と勇気が友達な素敵なアンパンさんだ。俺もタローも最近の湯船に浸かって歌う歌は、アンパンさんシリーズばかりだな」
「! アンパンの野郎……俺の嫁と娘をたぶらかしやがって……ッ!」

 笑いから復活して説明すると、アゼルはなにを思ったのか、アンパンさんに闘志を燃やしてしまった。

 アゼルのスイッチは未だによくわからない時があるな。

 アンパンさんへの愛とアゼルへの愛は、タローも俺も別物なのに、だ。

 かっこいいのにプライベートはかわいいアゼルをぐっと抱き寄せ、俺はその唇にチュ、と触れるだけのキスをしてやった。

「うあっ……!?」
「アゼル、どうだ? 元気になっただろう? 元気がフルパワーなら精霊王たちとの会議も接待も、へっちゃらになるんだぞ。俺の自慢の魔王様は、きっちり倒して帰ってくるに決まっているんだ」
「じ、自慢」
「だってアゼルは早く帰って、俺とタローも接待しないといけないんだから。な?」

 含み笑いの混ぜ込まれたセリフの後、口元を緩ませて笑ってみせる。

 ふふふ。負けず嫌いの特性を生かすには、これだと思う。

 どうだ。甘やかすだけが俺じゃない。
 こうして厳しくも元気を込めて、旦那さんを叱咤激励するんだぞ。

 もちろん、その後物凄く甘やかすのだ。

 これは内緒だからな?
 バレてしまったら叱咤にならないんだ。

 発破をかける内心が滲み、少々ドヤ顔になってしまった。

 発破をかけられた側のアゼルは仄かに赤らんだ頬で、ぽかんと俺を見つめる。

 それから黙ってそーっと俺の首元に顔を寄せると、そのまま静かに、カプリ。……カプリ?

「アゼル、アゼル待て、凄く深く噛んでるが、横にタロー、っう、あ、っ」
「…………」

 肉を覆う皮を突き破って、手馴れた様に首筋へ潜り込んでくる牙。

 穿たれた傷口からトクトクと溢れる血液を飲み込み、アゼルは同時に舌で傷口周辺の、敏感になっていく皮膚を舐める。

 それは毒がまわらないように飲む普段の慎重な飲み方ではなく、なし崩し的にその後を狙う時の飲み方だ。

 つまり、まずい。

 隣では柔らかな頬を枕に押し付けて、ふやけた表情で眠る愛娘がいる。

 呼吸を殺す隠密活動そのものなセックスは精神を使うと言うのに、どこでスイッチが入ったのやら。

 なし崩そうとしているのか。
 困ったさんめ。

「ンぅ、……知らねぇ、もう知らねぇ。元気になった。いろんな俺が元気なったんだぜ」
「ひ、っ、ん……っ下ネタ言ってる場合じゃない、もう、っあ、脱が……っ!」

 ──反省点が、一つ。

 今後、発破の掛け方は熟考するべきである。



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