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十四皿目 おいでませ精霊王
03
しおりを挟むアゼルにそのままそれを尋ねると精霊王を思い出したのか、噛み潰す苦虫が十は増えた様に見えた。
「別に……王になってからは、なんもねぇ。それにアイツは、別に嫌いじゃねぇよ。俺より若いし、大目に見てるところはある」
「ん? それじゃあ大丈夫なんじゃないか?」
「嫌だ。だってな、他国の王族と会うってのは、なに一つ面白いことがないんだぜ? 友好的に、気を使って受け入れないとダメだから……俺の神経が、ひたすら擦り切れる」
それはもうブチブチと、と付け足したアゼルは、俺を抱きしめて匂いを嗅ぎ、気をおちつける。
どれだけ嫌なんだ。
外交が一番苦手なのだろうか。
よく考えると、そもそもアゼルはライゼンさんたち部下や民に報いるために頑張っているが、魔王業には向いていないと言っていた。
なるほどな。
究極的には、慣れない人と腹芸で戦うのは全て嫌なんだろう。
「俺はああ言う外交とか動きを探る為の会議が、全部嫌いだ。無駄だ、塵芥だ。痛くもない腹をしこたままさぐられて、つまらない話に付き合ってやるのは、苦痛でしかない」
「ふむふむ。アゼルはなまじ体が強いから、精神攻撃が一番嫌いだった」
「ふん。力で殺し合わずに貶めて利用するようなやつらは、あまねく滅べばいい。……だいたい、接待で帰るのが遅くなるだろうが」
いつものことだが、最後にボソリと付け足された言葉は、俺には届かなかった。
しかし割とシンプルな理由で非常に嫌がっていると言うのは、しっかりと伝わっている。
確かに、そう思うと嫌だな。憂鬱だ。
肉体的疲労をほぼ感じないアゼルにすると、精神的疲労が一番の大敵と言っても過言じゃない。
王様というのは苦手なこともしないといけない。
書類仕事とは違い、代わりになってくれる人はいないのだ。
不向きなりに何十年も頑張っているアゼルは、とても偉い。はなまるをあげよう。
頑張り屋さんの旦那さんは、非常に遠まわしに甘えたいと言っているのだろう。
これは溢れる程元気を盛り込むのが、俺の今するべき最優先事項だ。
「よーしよし。それじゃあ、明日の為に元気を補充しておくからな」
「ン、んむ」
自分の役割を理解した為、俺はアゼルに明日を乗り切る元気を前もって注入しておこうと考えた。
「もーしー自信をなーくしてー、くーじーけそうになーったらー」
「ぐぅ、シャル、お前俺をタローとおんなじ扱いすんなっ」
「いーいーことだけいーいーことだけ、おーもいーだーせー。ほいほい」
「ほいじゃねぇっ。お前の世界にいたアンパン野郎の歌だろ。それっ」
「うぁっ、ふっあははっ、わかったからくすぐるなっ」
元気チャージをすべく、アンパンさんの有名ソングを歌いながら、柔らかな髪をいいこいいことなでてみる。
すると子ども扱いをするなと叱られ、脇腹をくすぐる反撃を受け、すぐに降参してしまった。
それはずるい。
俺はなにかと皮膚感覚が鋭いのだから、手加減してほしいものだ。
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