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十四皿目 おいでませ精霊王

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「明日、精霊王が来る」
「精霊王?」

 アゼルが苦虫を噛みつぶした様な表情でそう言ったのは、秋も更け、冬を目前に控えた夜のことだった。

 春月一番、三月から始まるタローの学校デビューの準備が終わった現在は、十一月の秋月三番だ。

 輜重隊と戯れてから、二ヶ月くらいが経ったところである。

 件のタローは相変わらず寝つきがいい。

 ベッドに潜らせおやすみ三秒で夢の世界へ旅立ち、俺の腕の中ですやすやと寝息をたてている。

 しかし今日は朝からそれらしいことを少しも滲ませていなかったが、アゼルは密かにモヤモヤとしていたようだ。

 わざわざタローが寝付くのを待ってから切り出したアゼルは、気に食わない気分を前面に押し出し、明日の来訪者について語り始めた。

「精霊王は、精霊界……霊界の王だ。俺は精霊城に、行ったことなんかねぇ。でもなにもなくても年に一度くらいの頻度で、魔界に外交と会合の為、向こうが来やがるんだ」
「そうなのか。確か天族と違い、精霊族とは仲が悪いワケじゃないんだったな」
「まあ、良くもねぇ。なんと言うか……あれだ。自分ルールに抵触しなきゃ、なんでもイイって種族なんだよ」
「超個人主義みたいなモノか?」
「みたいなモノだぜ」

 アゼルは俺の髪に鼻先を擦り付けて、ボソボソと話す。

 ハッキリ嫌だとは言わないが、なんとなく気が重いのは察してしまう。

 腹を抱く腕がもぞついて指先で俺の腹筋に円を書き出したので、相当気が乗らないらしい。

 基本的に俺関連のこと以外は我慢強いアゼルなので、自分から盛大に愚痴を言ったりはしない。

 ダダは捏ねるけれど、タローが生まれてからは余計に、仕事の嫌な話なんて部屋に持ち帰ってこなかった。

 なのに態々二人だけになるのを見越して語りかけてくるということは、あまりに気乗りしないから、言いたくて仕方ないのだ。

 珍しいな。
 どうしても我慢できなかったなんて、相当他種族がトラウマ化しているのかもだ。

 心配になった俺は、タローを腕の中からそっと離して、風邪を引かないように上掛けを深く被せる。

 それから後ろを振り向き、冗談も込めてじゃれる様に、アゼルの顎の下を指先でこしょぐってみた。

「っうひ、む、やっ、やめろ馬鹿、っ」
「あはは。俺の腹で不貞腐れるからだ、笑わせたくなる。仕返しは必須だろう?」
「それを仕返しだと思うなよ、この野郎っ。グルル……!」

 ムスっと仏頂面で機嫌が悪い表情をしたアゼルは、俺を睨んで唸り声を上げる。

 しかし引き剥がすことも抵抗もせず、腰を抱いていた腕を背中に回して、俺の体にしがみついた。

 ふふふ。愚痴を言っただけなのに気にかけてもらったのが、よほど嬉しいんだろう。

 照れ臭いから睨んでみせるお前の習性は、とっくにわかっている。



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