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閑話 ガドと愉快な仲間たち
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しおりを挟む自業自得だが、それがなんだか自分の昔を思い出して同情してしまった。
騒動から一ヶ月後の現在──俺はタローを肩車しながら、リンドブルムの寮へ向かっている最中だったりするのだ。
「むっふ、むっふ、むっふっふ~♪ ぴんくのこーと、かわいいこーと、たろーのこーと♪」
「タロー、まだ冬になっていないから、暑いだろう? トキメキコーデはかわいいけれど、暑くなったら俺に言うんだぞ。冷たいジュースを持っているからな」
「ん~っ、わかったよ! ねーねーしゃる、わたしこれっ、ときめいた! むねきゅんぴんく、かわいいねぇ~」
「そうだな、かわいいな」
うちの娘がかわいいな。
しみじみと思う。
女の子と言うのは、どうしてこんなに柔らかくて小さくて愛らしいのだろうか。まるで宝物のようだ。
傷がなくて、本当によかった。
だからこそリンドブルムたちに同情したり、こうして様子を見に行くことになったりできるのだが。
浮かれたタローが身にまとっているのは、あの日ガドと一緒に買いに行った、お気に入りの服装である。
セーラー服のような白いワンピースは、いつものワンピースよりしっかりと縫製された頑丈な生地だが、動きやすく薄手だ。
襟の部分は薄い太陽のような色をしていて、よく似合っている。
靴は植物柄が入った革のサンダルで、これは汚れても洗いやすい。
こげ茶の背負える薄いランドセルのようなものは、翼に当たらないように肩ベルトを調節してあるので、邪魔にならない。
そして本人お気に入りの薄いピンクのコートは、四季の差が激しくない魔界においてあまり重い生地ではないものだ。
デザインこそ雪国のダッフルコートだが、動きやすそうである。
全て身につけたタローは、本日、ご機嫌で俺の肩の上にいた。
鼻歌まで歌っている。
作詞作曲タローの「コートの歌」。
実はリンドブルムたちのところへ行こうと言い出したのは、この浮かれたタローだった。
タロー曰く、リンドブルムたちに物申したいことがあるらしい。
一人では危ないので俺がつれていくことにして、今に至る。
様子を見がてら、お菓子も持ってきた。
今日のお菓子はピーナッツせんべいだ。
最近、せんべいを作る大きな鉄板を厨房から譲ってもらった。
元は普通の鉄板だが、魔族用の大容量なやつだ。お菓子のレパートリーが増えて、とても嬉しい。
「こーと、こーと♪」
「タローのコート」
「かわいいこーと♪」
「「ピンクのコート♪」」
元々倉庫だったのを改造した空軍の輜重隊舎へ歩きつつ、俺とタローは名曲をデュエットする。
幼児と妃の謎の散歩に、魔王城で働く魔族たちは慣れたもんだ。
たまに声を掛けられたり和やかな視線を感じたりするのもいつものこと。
二人で手を振って応えるのも定番だ。
近づいては来てくれないのだがな。
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