上 下
724 / 901
閑話 ガドと愉快な仲間たち

33

しおりを挟む


 自業自得だが、それがなんだか自分の昔を思い出して同情してしまった。

 騒動から一ヶ月後の現在──俺はタローを肩車しながら、リンドブルムの寮へ向かっている最中だったりするのだ。

「むっふ、むっふ、むっふっふ~♪ ぴんくのこーと、かわいいこーと、たろーのこーと♪」
「タロー、まだ冬になっていないから、暑いだろう? トキメキコーデはかわいいけれど、暑くなったら俺に言うんだぞ。冷たいジュースを持っているからな」
「ん~っ、わかったよ! ねーねーしゃる、わたしこれっ、ときめいた! むねきゅんぴんく、かわいいねぇ~」
「そうだな、かわいいな」

 うちの娘がかわいいな。
 しみじみと思う。

 女の子と言うのは、どうしてこんなに柔らかくて小さくて愛らしいのだろうか。まるで宝物のようだ。

 傷がなくて、本当によかった。

 だからこそリンドブルムたちに同情したり、こうして様子を見に行くことになったりできるのだが。

 浮かれたタローが身にまとっているのは、あの日ガドと一緒に買いに行った、お気に入りの服装である。

 セーラー服のような白いワンピースは、いつものワンピースよりしっかりと縫製された頑丈な生地だが、動きやすく薄手だ。

 襟の部分は薄い太陽のような色をしていて、よく似合っている。

 靴は植物柄が入った革のサンダルで、これは汚れても洗いやすい。

 こげ茶の背負える薄いランドセルのようなものは、翼に当たらないように肩ベルトを調節してあるので、邪魔にならない。

 そして本人お気に入りの薄いピンクのコートは、四季の差が激しくない魔界においてあまり重い生地ではないものだ。

 デザインこそ雪国のダッフルコートだが、動きやすそうである。

 全て身につけたタローは、本日、ご機嫌で俺の肩の上にいた。

 鼻歌まで歌っている。
 作詞作曲タローの「コートの歌」。

 実はリンドブルムたちのところへ行こうと言い出したのは、この浮かれたタローだった。

 タロー曰く、リンドブルムたちに物申したいことがあるらしい。

 一人では危ないので俺がつれていくことにして、今に至る。

 様子を見がてら、お菓子も持ってきた。
 今日のお菓子はピーナッツせんべいだ。

 最近、せんべいを作る大きな鉄板を厨房から譲ってもらった。

 元は普通の鉄板だが、魔族用の大容量なやつだ。お菓子のレパートリーが増えて、とても嬉しい。

「こーと、こーと♪」
「タローのコート」
「かわいいこーと♪」
「「ピンクのコート♪」」

 元々倉庫だったのを改造した空軍の輜重隊舎へ歩きつつ、俺とタローは名曲をデュエットする。

 幼児と妃の謎の散歩に、魔王城で働く魔族たちは慣れたもんだ。

 たまに声を掛けられたり和やかな視線を感じたりするのもいつものこと。

 二人で手を振って応えるのも定番だ。
 近づいては来てくれないのだがな。



しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...