上 下
721 / 901
閑話 ガドと愉快な仲間たち

30

しおりを挟む


 今回の危機的状況を助けてくれたアゼルに気を利かせるのはいいが、今度は俺が危機的状況になってしまうぞ。

 振り払うことはできないので説得しつつ、俺は時折指先を震わせて、カプカプの猛攻に耐える。

 そのうち、タローがアゼルの真似をして俺の髪をかじり出した。

 こらこら。
 毎日シャンプーをして綺麗にしているけれど、お父さんの髪を食べてはいけない。

「ン……。……? そういえばタロー、どうして俺が隠密中……えっと、迎えに来た時、俺の姿が見えたんだ?」
「むふぅ? ひゃうのことみえふの、いふもふぁむぉ~」
「俺のことが見えるのはいつものことなんだな。でもあの時はシャル、ないないにしてたんだぞ? ……ぅ、ん、アゼル、もう駄目」

 俺の髪を千切らないまま、口の中でもぐもぐ食んでいるタローの言葉を聞きとって答える。

 そしてそろそろ本格的に困ったことになるのでアゼルに待ったをかけると、アゼルはガン、とショックを受けた。

「ぷぁ、ぐ……せっかくの公然のチャンスがっ……! ご、ゴホン。タロー、お前、スキル効かねぇのか?」
「ふひぃぅ~? むぅぅ……?」
「うーん。そうだ、アゼルのことは怖いか?」
「まうぉひゃんふぉあふなむぃ~!」
「俺のことは怖くねぇのか……常時威圧が効いてねぇってわけだな。まぁ俺が黙ってなけりゃ、多少緩和できるけどよ」
「ということは、他者からのスキルが無効、若しくは軽減のスキルでも持っているのかもな。今度、そんな力のある精霊族について調べてみよう」
「そうだな……」
「クックック、と言うかお前らはスッゲェ解読力してんなァ~」

 俺に続いてタローの言葉を読み取り答えるアゼルに、ガドは愉快そうに笑う。

 まぁ子どもの言うことはいつも謎だからな。
 解読しないと埒が明かない。それが親と言うものだ。

 じゃなくて、それよりもタローにスキルが効かないほうが大変である。

 隠密スキルを使っている間は気配や姿が消えるんだが、タローは気がついていたのが気になっていたんだ。

 そういうスキルは聞いたことがない。

 風呂上がりに髪を乾かす乾燥の魔法が効くので、魔法は効くと思うのだがな。

 今は見たところ怪我はないし、トラウマもないけれど……。

 それが気になったので、帰ったら魔導具での精密検査をユリスに依頼しようか。

 俺の指をようやく離したアゼルが仏頂面でタローの頬をつついたり、前髪を持ち上げてパサッと落としたり様子を見ている。

 なるほど、心配らしい。

 タローは膨らませた頬をアゼルに指で潰され、キャッキャと笑ってはまた頬をふくらませる。
 アゼルはそれをもう一度潰す。

 ふむ。俺の肩の上で、なんだか愉快な遊びをしているな。

 気持ちぷくっと俺も頬をふくらませてみる。

「アホか」
「どーんっ」
「ほいさ」
「うみゅ」

 すると両サイドから小さくて柔らかな指と、骨ばった長く滑らかな指が伸び、極めつけに鼻の先を爪を引っ込めた硬い指先が潰した。

 言わずもがな、タローとアゼル、更に目の前にやってきたガドである。

 こういう時は息ぴったりだな、お前たちは。仲良しさんめ。


「今度は俺が潰そうか」


 ──こうして。

 しばらくツンツンと互いの頬をつつき合い、赤い空の下、ほのぼのと騒動は幕を閉じたのだった。

 余談だが、俺に肩車をされるタローを見て、ガドが「俺もされたいぜィ」と言う。
 唐突に思いついたらしい。

 赴くままにアゼルの肩に飛び乗って、仲良く四人肩車体勢でしばし歩いたのは、四人だけの秘密だ。

 土台になった俺とアゼルはお出かけ気分で手を繋いだのだが、もちろん、左手で繋いだ俺である。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回

朝井染両
BL
タイトルのままです。 男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。 続き御座います。 『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。 本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。 前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

淫らに壊れる颯太の日常~オフィス調教の性的刺激は蜜の味~

あいだ啓壱(渡辺河童)
BL
~癖になる刺激~の一部として掲載しておりましたが、癖になる刺激の純(痴漢)を今後連載していこうと思うので、別枠として掲載しました。 ※R-18作品です。 モブ攻め/快楽堕ち/乳首責め/陰嚢責め/陰茎責め/アナル責め/言葉責め/鈴口責め/3P、等の表現がございます。ご注意ください。

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話

さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ) 奏音とは大学の先輩後輩関係 受け:奏音(かなと) 同性と付き合うのは浩介が初めて いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく

処理中です...