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閑話 ガドと愉快な仲間たち
16
しおりを挟む蛇が絞め技をかけるようにドンドン強くなるハグの力に、俺は顔色を青くしつつガドの話を解読する。
ガドは魔王城に帰ってきて、まず、ライゼンさんのところに行ったらしい。
傷を治してもらったそうだ。
それから新しい軍服に着替えてから、アゼルの執務室へ行く。
そしてアゼルの目の前でちまちまと辞表を書いて、嫌だ嫌だとごねながらも渡した。
アゼルは子どものように涙するガドに初めは硬直し、なにを思ったのか今日の俺のお菓子であるシフォンケーキを差し出したとか。
けれど説明どころじゃない様子のガドに、考えを改めて黙って見守り、最後には辞表を受け取ったのだ。
その後はかんたん。
辞表を処理して解任の書類を返答されるまでの待ち時間、ガドは勝手にアゼルの執務室を出て、俺のところへ来たということだな。
タローは絶対に返してほしいので辞めたけれど、本人はとても辞めたくないのだ。
ごねくりまわして俺に謝ってから、助けてくれ、どうにかしてくれと、縋ってきた。
「ぅごほっ、わか、わかっているぞ」
「ぐすんぐすん」
「げほ、うう……俺がお前を嫌いになるわけも悪い子を間違えるわけもないと知っていて、存分に甘えに来るんだから、ガドはとびきりのいい子だな」
少し内臓が出そうだが、俺は駄々っ子モードのガドをなでながらふぅ、と息を吐いた。
優しく語りかけると顔を上げたガドを見つめ、くっと勝気に微笑んでみせる。
「さてと……タローを誘拐した竜人たちに特大のお灸を据える計画を、練るとするか」
「うぁ、これだからシャルは最高だぜェ」
その言葉を聞いてビチビチと尻尾をくねらせるガドは、仲間ができて一安心だと、打って変わってニマニマと笑った。
当然だろう?
こう見えて俺はかわいい我が子と友人を虐められて、なかなかに怒っているんだ。
手は早くないから、殴ったりしない。
教育的お説教だけだ。
だがもしタローに傷がついていたなら、全員に是が非でも一発拳を入れる。
お父さん魂を燃やし、まだ見ぬリンドブルムたちからタローを奪還する覚悟を決める。
──しかしながら……どうしてリンドブルムの竜人たちは、タローをガドの彼女だと思っているんだろうな?
タローはまだほんの子どもで、お嫁さんになるには早すぎる。
早すぎるし、たぶん最低でもアゼルは倒さないとだめだと思うぞ。
アゼルはタローにはツンとしていて甘やかしたりしないが、本人も気づかないまま、大真面目に過保護である。
鞭担当の魔王様は、眠るタローのほっぺを時折嬉しげにつつくのだ。
「よし、それじゃあ会議だ」
「ン~」
復活したガドを最後にワシワシ撫でてやると、ガドはのびをしてから起き上がる。
うん、機嫌はとても良さそうだな。
彼はいつもそうでないと。
ベッドの端に二人で並ぶが、動き出すのはまだだ。
作戦会議をする前に、おそらくもうすぐやってくる歩く最終兵器を待たねば。
事情を知らないままでも、アイツは辞表をちゃんと処理して、判をついてガドに渡しに来るだろう。
「ン? シャル、作戦会議はまだしねぇの?」
「するぞ。でもメンバーがまだ足りていないから、もう少し待っててな。俺の勘だが、たぶんそろそろ──」
その瞬間、バァンッ! と扉が開いた。
「いやがんな、ガド」
そして予想通りのタイミングで現れたのは、顔にわかりやすく〝お前が辞めるのは不満です〟と書いた顰めっ面。
「オラ、解任書と任命書だ。どこのどいつか知らねぇが、誰の部下に手を出してるかわからせてやる。さっさと洗いざらい事情を吐きやがれ」
「ほらな?」
書類を二枚持ってやってきたアゼルを見て、俺はガドにな? と頷いた。
来ると思ったぞ、アゼル。
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