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十三皿目 ラブリーキングに清き一票

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 うう、こ、こうなったら俺は帰るしかない。
 コンテストどころじゃないぞ。

「……わ、わかった。叱ったぐらいで別居しないし、女装していたからって嫌いにもなっていないから、取り敢えずええと、俺は帰るからな? な?」
「嫌だ離れんじゃねぇぇぇッ」
「んんん……ッ、よし、おいで。じゃあ俺と一緒に帰ろうか? ん? ぅぐはッ!」

 一緒にと言った瞬間、アゼルが花道から俺の胸に飛び込んできて、ドスッ! と首を絞められる勢いで抱きしめられた。

 下の影にいた俺はペシャンコになりそうだったが、どうにか受け止め、背中をさする。

 暴走思考回路を持っている早とちりの名人なアゼルなので、こちらももうコンテストどころじゃないようだ。

「アゼル、アゼル?」
「ぐ、グルル……! 女装趣味なんてねぇんだ……ッ! 俺の全てはお前基準だぜ……ッ!」
「よしよし、恥ずかしさの限界突破中なんだな」

 麻痺していた羞恥心が帰還し、フィーバータイムになっている。

 抱きついてきたはいいがやはり見られたくないようで、アゼルが首にしがみついて梃子でも顔を上げないのは、ちょっと困った。

 仕方なく首の魔導具を外し、ヒョイッと自分より背の高いアゼルを横抱きにする。

 アゼルがゴネ始めてからの一連の騒動を聞いて、静まり返った会場内。

「うん。ごめんな、ちょっと通してもらいたいんだ」

 ザザッ! と一言で道を開けてくれた観客の間を縫って、出口へ向かって歩いた。

 熱狂していた筈の観客たちがすぐ道を開けてくれたのは、不思議だな。

 おかげでぶつかったりすることなく会場の出口にやってくることができたので、感謝である。

 アゼルはその間ずっとひたすら小言や泣き言をツイートしていた。

 曰く「もうちょっとでラブリーキングになって名実ともに一番だったのに」やら。

「俺史上最低な姿を他の誰でも構わないのに唯一構う奴に見られた」やら。

「後その服なんだよなんかエロいじゃねぇかチクショウ俺だけに見せろよ馬鹿野郎エロエロ男め」やら、だ。

 解読不可能だったので、全てに「うん、うん。また後でな」と返した。

 ううん。俺が来たせいで、カオスな状態になってしまったな。
 アゼルを驚かせたのも申し訳ないし、コンテストをダメにしてしまったのも申し訳ない。

 出口にやってきた俺は、せっかくのイベントを潰してしまった罪悪感から、退室前にクルリと会場内へ振り向く。


「ん……お騒がせして、本当に申し訳ない。この早とちりがちな泣き虫な女王様のかわいい唇は、俺が塞いでおくので──美しいお嬢さんたち。どうか許してほしい」
「あぁ~~~ッ!」


 せめてもの気持ちとして、かわいいコンテストの会場に相応しい振る舞いで、立ち去ろう。

 そう思ったが故のお茶目なセリフだ。

 ペコリと頭を下げてから、なぜか更に悲鳴を上げ始めたアゼルを宥めすかしつつ、俺たちは激動とカオスの会場を後にした。

 ──バタン。

「「「だ、抱かれたいキング……ッ!?」」」
「はぁ……アホらしい。帰りましょう」
「? 駄目だ、脳の回路が壊死しているのか? 正式に給与の発生する任務として優勝してこいと言われたのだから、優勝しなければいけないぞ? クソ虫よ」
「…………ダンゴムシが恋しい」



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