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十三皿目 ラブリーキングに清き一票

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「えっ……!? まさか…………嫁っ!? 嫁に女装癖ナイショだった系なのッ!?」
「女王様が形なしなレベルで恥ずかしがってるわね……有り寄りの有り」
「むしろ胸キュンじゃない」

(ま、まずいぞ、胸キュンされている……)

 俺はフニャフニャのアゼルがかわいいとざわつき始めた観客が気になり、困ってしまった。

 悶絶を止めたくとも俺に見られてそうなっているのだから進み出るわけにも行かず、オロオロとするしかない。

 しかし──そんな時に聞こえた、すぐそばのオカ魔さんたちの会話がこちら。

「……ん? 待って! アゼリーヌの嫁ちゃんって──あの乳首調教済みの感度抜群っ子……!?」
「いやァんっ! そうよね!? この会場内に開発されたドスケベな嫁ちゃんがいるってコトなのねっ!?」

 これにより、俺は改めて別方向に気合を入れ直し、そっと呟く。

「……なるほど、お説教タイムだな」

 そこのお嬢さんたち、やめてくれ。

 俺はスケベじゃないし調教済みでも、……なくはないが、いったいどうして俺の性能が広まってるんだ……!?

 これは非常によろしくない。深呼吸し、状況を把握する。
 なにをどうしてそんな話になったのかは、もう聞かないでおこう。

 ただこれ以上プライベートを明かさないように言い聞かせないと、アゼルは拡声モードでなにを言い出すかわからないぞ。

 旦那のうっかりは、嫁のうっかり。
 夫夫は連帯責任である。

 満を持して人混みをかき分けつつ、人が多くて騒がしいのでそれに乗じ、できるだけ身を潜めて花道のそばに近づく。

「アゼル、アゼル」
「! ううぅ~っ」
「そんなに嫌だったとは気付かず、勝手に来てゴメンな……俺はもう帰るから、安心してくれ」
「ぅあっ……!?」
「でも、今からちょっと叱るぞ」
「──……ッッ! いッ嫌だあぁぁぁ! まだかわいいのてっぺんとってねぇだけだろうがッ、ふ、フンッ! 今にすげぇかわいくなるのにアホっ! お、俺を捨てるのはまだ早いんだぞ馬鹿野郎ぉぉぉ……っ!」

 多少周りがうるさくても俺の声には気がついてくれたらいいな、と思い密やかに話しかけると、アゼルはやっぱり気がついてくれた。

 なので黙って勝手に見に来たことを謝ると、アゼルはガーン! とショックを受けた表情をする。

 それから「俺の痴態をまた勝手に披露するのは駄目だと言ったじゃないか」と言い聞かせようとしたのだが。

 アゼルは真っ赤になって唸っていたのに、突然起き上がり、眉を垂らしながら涙目で睨んできた。

 これには俺も焦り、ブンブンと必死に首を横に振るしかない。

「アゼル? あの、アゼル。アゼル待て、なにかしら誤解だ」
「俺を捨てようなんて残酷な嫁めっ!」
「いや、そうじゃなくて、拡声器のスイッチが入ってるんだ」
「捨てたら酷いぜっ、俺じゃないと満足できねぇ体にしたんだ、酷いんだぜぇぇぇ……っ!」
「スイッチが入ってるんだっ」

 更に当然アゼルには拡声魔導具がついたままなので、素のアゼルの言葉が拡散されている。

 それはもう大音量で、だ。

「怒って帰るってッ! 別居は嫌だぁぁ……ッ!」
「しない! しない! スイッチ入ってるっ!」

 悶絶モードから駄々っ子モードに入ったアゼルは、顔を両手で覆ったまま絶叫する。

 オロオロと焦る俺は、ここまであけすけに取り繕うことなく人前で駄々を捏ねられたことがないので、どうしたものかと狼狽えてしまう。



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