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十三皿目 ラブリーキングに清き一票

30(sideゼオ)

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 ◇


 観客も出場者も一緒くたになっている、会場の外の廊下。

 ドリンクスペースがあるので賑わってはいるが、会場内より断然人の少ない。

 幾分マシな場所に来て、ゼオは少し疲労から回復した。

 しかし目当てのドリンクの瓶を確保して抱え、戻ろうとしたところ、周囲が若干ざわめいている気配を感じた。

 揉め事でもあったのかと足を止め、職業病的にざわめきの方向へ顔を向ける。

「ねぇ、見てあの子……!」
「あらやだ……っ!?」

 近くのオカ魔の言葉を聞く限り、誰かが来たみたいだ。人混みはその人物に視線を集中させているらしい。

「じょ、女装なの?」
「一応。確か東方の街では、女しかつけない仕事の服よっ。でも、色味ぐらいしかかわいくないわね……」
「かわいくないどころか、すぐに乳首をもぎれるあの衣装……もっちりと厚い胸板……なかなか雄臭いじゃない……」
「それってつまり?」
「女豹の巣に食べごろのいい男が放り込まれたってこと」
「なるほど。ドリンクスペースだからあの子のアレも飲んでいいってことね? 運営もたまには気がきくわね」

 聞こえる声を更に解析すると、おおむねはそういったトンデモセクハラ発言である。
 誰か知らないがさっさと逃げたほうがいい。

 揉め事でないなら興味のないゼオだが、野次馬だろう人混みを掻き分けて、会場の入口を目指し進んでくる人物がいた。

 ざわめきの元凶だろうか。
 昼間は弱い視力で目を凝らし、静止。

「す、すまない、通してほしい。ああええと、そこのお嬢さん、俺の尻に手が当たっているぞ? なにやら揉んでいるお嬢さんもいるが、それは俺の尻だ。人ごみだから手が当たるのは仕方ないけれど、できれば通してくれると嬉し……」

 そのざわめきの原因が困り顔で顔を出した瞬間──ガパァンッ! ドカッバコンッ! と、ドギツイ打撲音が盛大に鳴り響いた。

「ぎゃぁんッ!?」
「いやぁんッ!?」
「おぁぁんッ!?」
「きゃッいーんッ!?」

 あちこちから野太いオトメの悲鳴があがるが、知ったこっちゃない。手を氷漬けにされなかったことを感謝しろ。

 周囲のオカ魔たちを持っていたドリンクの瓶で思いっきり殴り飛ばしたゼオは、冷淡ながら全力でオカ魔を追い払う。

 戦況判断と補佐に特化しているので、魔力量や物理には自信がないが、これでも陸軍のナンバーツー。

 素早く的確に脳天へ衝撃を与えれば、制裁を受けたアホ共は悲鳴を上げて散っていく。

 睨んでくるものもいたが、あまりにも冷たい赤茶の瞳をスっと細められては、ヒールを鳴らして逃げ出すしかない。

「……? ……??」

 突然人が散って開いた廊下に残ったのは、巫女服をはだけさせてぽかんとする端正な顔立ちの男だ。

 彼は何度か瞬きをしたが、持ち前のなんでも受け入れる性質でよしと判断した。

 そして目の前で血まみれの瓶をガシャコンッ! と適当に投げ捨てたゼオに、ゆるりと口元を緩める。

「よかった……ゼオ、無事だったか? 尻はまだ清いままか?」
「アホ。俺よりあんたのそれが危なかったってわかってないんだな? シャル」
「うん?」

 ド天然のとんでもない鈍感。
 またの名を、自力で困難をせっせと乗り越える、男気溢れるのほほん戦士。

 キョトンと首を傾げた彼は、扉を隔てた向こう側で最終決戦に挑まんとしている美しすぎる女装男な主の、妃である。

 すなわち、魔王様はかわいくなりたい事件の発端を作った──シャルだった。



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