上 下
678 / 901
十三皿目 ラブリーキングに清き一票

30(sideゼオ)

しおりを挟む


 ◇


 観客も出場者も一緒くたになっている、会場の外の廊下。

 ドリンクスペースがあるので賑わってはいるが、会場内より断然人の少ない。

 幾分マシな場所に来て、ゼオは少し疲労から回復した。

 しかし目当てのドリンクの瓶を確保して抱え、戻ろうとしたところ、周囲が若干ざわめいている気配を感じた。

 揉め事でもあったのかと足を止め、職業病的にざわめきの方向へ顔を向ける。

「ねぇ、見てあの子……!」
「あらやだ……っ!?」

 近くのオカ魔の言葉を聞く限り、誰かが来たみたいだ。人混みはその人物に視線を集中させているらしい。

「じょ、女装なの?」
「一応。確か東方の街では、女しかつけない仕事の服よっ。でも、色味ぐらいしかかわいくないわね……」
「かわいくないどころか、すぐに乳首をもぎれるあの衣装……もっちりと厚い胸板……なかなか雄臭いじゃない……」
「それってつまり?」
「女豹の巣に食べごろのいい男が放り込まれたってこと」
「なるほど。ドリンクスペースだからあの子のアレも飲んでいいってことね? 運営もたまには気がきくわね」

 聞こえる声を更に解析すると、おおむねはそういったトンデモセクハラ発言である。
 誰か知らないがさっさと逃げたほうがいい。

 揉め事でないなら興味のないゼオだが、野次馬だろう人混みを掻き分けて、会場の入口を目指し進んでくる人物がいた。

 ざわめきの元凶だろうか。
 昼間は弱い視力で目を凝らし、静止。

「す、すまない、通してほしい。ああええと、そこのお嬢さん、俺の尻に手が当たっているぞ? なにやら揉んでいるお嬢さんもいるが、それは俺の尻だ。人ごみだから手が当たるのは仕方ないけれど、できれば通してくれると嬉し……」

 そのざわめきの原因が困り顔で顔を出した瞬間──ガパァンッ! ドカッバコンッ! と、ドギツイ打撲音が盛大に鳴り響いた。

「ぎゃぁんッ!?」
「いやぁんッ!?」
「おぁぁんッ!?」
「きゃッいーんッ!?」

 あちこちから野太いオトメの悲鳴があがるが、知ったこっちゃない。手を氷漬けにされなかったことを感謝しろ。

 周囲のオカ魔たちを持っていたドリンクの瓶で思いっきり殴り飛ばしたゼオは、冷淡ながら全力でオカ魔を追い払う。

 戦況判断と補佐に特化しているので、魔力量や物理には自信がないが、これでも陸軍のナンバーツー。

 素早く的確に脳天へ衝撃を与えれば、制裁を受けたアホ共は悲鳴を上げて散っていく。

 睨んでくるものもいたが、あまりにも冷たい赤茶の瞳をスっと細められては、ヒールを鳴らして逃げ出すしかない。

「……? ……??」

 突然人が散って開いた廊下に残ったのは、巫女服をはだけさせてぽかんとする端正な顔立ちの男だ。

 彼は何度か瞬きをしたが、持ち前のなんでも受け入れる性質でよしと判断した。

 そして目の前で血まみれの瓶をガシャコンッ! と適当に投げ捨てたゼオに、ゆるりと口元を緩める。

「よかった……ゼオ、無事だったか? 尻はまだ清いままか?」
「アホ。俺よりあんたのそれが危なかったってわかってないんだな? シャル」
「うん?」

 ド天然のとんでもない鈍感。
 またの名を、自力で困難をせっせと乗り越える、男気溢れるのほほん戦士。

 キョトンと首を傾げた彼は、扉を隔てた向こう側で最終決戦に挑まんとしている美しすぎる女装男な主の、妃である。

 すなわち、魔王様はかわいくなりたい事件の発端を作った──シャルだった。



しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...