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十三皿目 ラブリーキングに清き一票
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しおりを挟む「チッ。ンな殺気立ってるくせに甘いぜ、シャル。あの時は俺もユリスも怒りでブチギレてたから、殺る気満々だったってのによォ」
俺がゴーと言うのを今か今かと血走った目で待っていたリューオは、釈然としないまま聖剣をしまってくれた。
もう忘れているかと思ったが、天使は敵だとインプットされていたみたいだ。
そんな俺たちをマイペースに見つめるグウェンちゃんは、ポンと拍子を打って、カラカラと笑った。
「ああ、あの時はすまなかったね。君を殺す気も、拷問する気もなかった。私はただ腑抜けの天使に飽いて、温厚な化物であるナイルゴウンをどうにか怒らせて殺し合い、全力を尽くした挙句に殺してほしかっただけだったんだよ」
「アァン? ド変態のイカレ野郎だなコイツッ! 殺されたがりのバトルジャンキーとか、頭逝ってるわ」
「あはは! そのとおりだとも! でも私を散々いたぶった後、ナイルゴウンは『殺されたい私を殺さないのが一番効きそうだ』と言って、殺してくれなかった。酷いと思わないかい? 自分より強い生き物なんて魔王ぐらいしかいないのに、殺ってくれないなんて残酷なことだ」
「酷いのはグウェンちゃんの性癖だと思うぞ。アゼルが殺さないと決めたなら、俺は尚のこと殺すわけにいかないな。ピヨピヨ鳴くのはこれっきりにしてくれ」
「ねえ先程から妃は私に対してだけ口が悪くないかい? 勇者と話している時はそんな口調じゃなかった気がするんだが」
いや、気のせいだ。
俺はその言葉に返事をせず椅子に座り直し、無駄に身構えさせられた緊張をほぐすように、麦茶を飲んだ。
それに倣って同じく麦茶を飲むリューオは、しれっとグウェンちゃんの翼に向かって火の玉を飛ばす。
けれど飄々としながらも戦闘体制に入っていたのか、グウェンちゃんは防御壁を張っていたらしい。
グウェンちゃんに間抜けな悲鳴は上げさせられず、隣から舌打ちが聞こえた。
「それより、報告帰りに勝手に寄り道していることはわかったが……目的はなんなんだ?」
ここにいる理由と、記憶喪失事件の知られざる天界のその後がわかって納得はしたが、なにがしたいのかわからず尋ねる。
「あぁそうだ、そうだね。いやたまたまタイムリーな話が聞こえたので、最後まで聞いていたのだが。君たち、女装コンテストに潜り込むんだろう? 私も混ぜてくれないかな。すこぶる愉快だ」
「はぁッ? 女装して乗り込むのはシャルだけだっつだよッ! この俺がンな気色悪ィことするかッ! ふざけんなッ!」
「落ち着け、俺もしない」
するとそんな馬鹿げた答えが返ってきた。
リューオの不機嫌そうな返事にツッコミを入れるのは、忘れないぞ。
アゼルに清き一票を投じたいのと女装をしたいは、イコールではないのだ。
そこに行くのに必要なら辞さない構えだが、できれば避けたい。
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