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十三皿目 ラブリーキングに清き一票

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 ◇


「なあタロー。アゼルの脛がツルツルになっていたんだが……今年の夏はそんなに暑いのか? それとも人型状態でも、毛の生え変わりがおこるのだろうか」
「まおちゃん? まおちゃんつるつるしてた?」
「ああ、ツルツルだった」

 この世界で言うところのあいうえお練習ドリルをこなしているタローは、俺の言葉を聞いて、ツルツルなんだねーとにこにこ笑った。

 それに対して二人がけのテーブルでタローの勉強を見ている俺は、真剣な表情で腕を組みつつ、無毛状態のアゼルの四肢を思い返す。

 そもそもの話、だ。

 俺がどうやら酔いつぶれて、なにかとんでもない浮気じみたことをしたらしい時から、アゼルは様子がおかしかった。

 そして二日ほど前ツルツルになっていることに気がつき、余計なにがなにやらわからずなのだ。

 おかしさを具体的に言うと、……ちょっとだけ、素っ気ない感じである。

 一週間前、みんなもそうだがアゼルはおおむね元に戻っていた。
 いつも通りに話してくれるし、触れてくれる。

 表面上普通にしていても、内心ずっと罪悪感やら不安やら寂しいやらでしょげていた俺は、分厚い雲が晴れた心地だった。

 なのに、だ。

 元に戻っているアゼルは、未だになんだか素っ気ない。素っ気ない、というか、うぅん……冷めている気がする……。

 タローがなかなか個性的な文字を書いている隣で、そっと静かにため息を吐く。
 今日の余りお菓子であるボックスクッキーをひとつつまみ、密やかに思索を巡らせた。

 このボックスクッキーも、ライゼンさんのメモによるとアゼルに評判が良かったので作ったんだ。
 下衆な作戦だが、好感度が上がっていれば嬉しい。そのくらい考えあぐねている。

 どう冷たいかというと、うーん……思い出せるものだと、こんなものか。

 例えば、俺がアゼルのあまり知らない人と話していたり挨拶を交わしているところを目撃したとする。

 すると普段のアゼルはいつの間にか後ろに居て、その人から隠すように抱きついてくる。

 しかし最近は黙って遠くから見つめるだけに留めているようで、目が合うと隠れてしまうんだ。

 まだあるぞ。
 女心や趣味がわからない俺が、タローに似合いそうなかわいいものをリサーチすべく、城に仕えている食堂のメイドさんを見つめていた。

 すると突然空からアゼルが現れ、俺に気づいているのかいないのか、その女性に話しかけたのだ。

 あのアゼルがだぞ? 気を許しているかいないかで態度に雲泥の差がある、あのアゼルがだ。

 そのアゼルが特に親しくない(と思う)メイドさんに、自分から声をかけて数言話した。
 それだけで俺は、硬直してしまったのだ。

 アゼルが様々な人に受け入れられ、関わりを持つのは、とても喜ばしいことだ。なにも不安がなければ祝福したいくらい、俺としてはウキウキの事案である。

 だけど……なんというか、普通の雰囲気ではなく、そのメイドさんはとてもかわいしく頬を染めていたものだから、邪推をしてしまってだな。

 もしかして記憶にない暴挙で恋心が冷めたアゼルは、浮気な俺より、かわいいメイドさんに新たな好意を抱いたのでは? ──なんて、馬鹿なことを考えてしまった。



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