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閑話 ガオガオ勇者の意外な一面と、ご機嫌回復戦線
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しおりを挟む泣きやんでも潤んだ目のまましがみついているから、そのまま生活したんだが。
もしかして病気になったのかと熱を測ったり、喉を見てみたり、俺はとても焦った。
当のアゼルは時たま独り言をつぶやくだけで、俺の言葉には特定の返事しかしなくなったので、宛にならない。
独り言は「やっぱり竜装備習得する」やら「かわいいは作れる」やら「怒りより愛想を尽かされたかと思って絶望した」やらだ。
余計わけがわからない。
『アゼル、どうした? ご飯を食べなかったし、お腹が痛いのか? タローがいなくて寂しいのか? まさかお前、呪われたのか?』
心配極まった俺がベッドの上でじっと見つめながら聞いても、このとおり。
『おれとはもうしない……おれとはもう……おれだけしない……ぐすん』
なんて、これしか言わないんだ。
言いながらやっぱり泣きだしてしまうものだから、聞き出すのは断念して、慰めることに徹した。
こんなにアゼルをひたすら慰めたのは、記憶喪失事件以来だぞ。
そして「俺が一番かわいくて好きだって言え」と頼まれたのも初めてだった。
──かわいいと言ったらかっこいいんだと怒るアゼルが、かわいいを求めるなんて……!
波乱の一夜この上ない。
そうして波乱の一夜を乗り切った今日なんだが──話は、冒頭に戻るのだ。
あからさまに避けられてしまったし、タローもユリスに連れて行かれてしまったんだ。
どうしたものかと悩ましい。
俺はことの次第をアゼルの執務室に報告書を持ってきた男──ガドに説明して、意見を求めた。
いつでもまず初めに自分を頼れと再三言われていたので、頼らせてもらおう。
ちなみにアゼルを除いて初めにガドを頼らなければ、まとわりついて拗ねる。
こういうところもアゼルに似ている義弟だ。
「クックック。頼れと確かに言ってるぜィ。むしろ言われなくとも、シャルのためならなんだって勝手にやってやりてぇ俺だけどなァ? ま、今回ばっかりは意見を言うことはできねェぜ~。ユリスたちに聞くところ、シャルにゃーは酒癖が悪すぎんだ」
しかし今日のガドは頼られたことに嬉しげに声を弾ませたが、アゼルの心情を教えてはくれなかった。
ユリスに話を聞いたみたいで、なぜか俺の酒癖の話をする。
どうやらアゼルにわがまま放題したと聞いたので、呆れられているのかもしれないな。
「うん、アゼルにわがまま放題したんだったか……それを見られていたんだな。俺はキャパシティを超えると、記憶がなくなってしまう。因みににゃーじゃないぞ」
「ワンかァ……」
「ワンでもないぞ」
人間なのでニンニンだ。……なんか違うな。はっとりくんになってしまう。
とにかく納得したので記憶がないと言うと、それでもガドはノーコメントだった。
んん……表情からガドの言いたいことを読み取りたいが、今日ばっかりは読み取れない。
理由は、ガドがいつかの∵仮面をつけているからだ。
魔界で流行っているのか?
魔族のセンスはよくわからないな。
その仮面はもちろん、謎の遊びをしていた時にアゼルが使っていた仮面である。
ちなみに現在。
渦中のアゼルは俺を膝に乗せて無言で抱きしめながら、魔法を駆使して書類仕事を熟していたりする。
そうとも。
俺は冒頭からアゼルに座りながら、本人の前で昨夜の暴挙を説明していたんだ。
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