642 / 901
閑話 ガオガオ勇者の意外な一面と、ご機嫌回復戦線
08
しおりを挟む冷静な俺が脳内に住んでいれば、どう見ても酔っぱらいでしかない。
けれどお生憎様。
今の俺は無敵のへべれけだ。
ぼやぼやと赤い頬で、窓から入って来たガドが胸の前でバツを作ってリューオにニンマリと笑みを浮かべるのを、眺める。
「イエスドラゴン、ノー銀トカゲ。もしくはシャルと魔王を見守りご褒美になでられ隊長と呼べィ。空軍長官ってそういう役職だぜィ」
「ガド、お前馬鹿なの? それなら僕のお父さんはなに隊長になんのさ。取り敢えず今面倒事になってるから、今すぐもう一度フライアウェイして来て? これ以上アホはいらないの」
「海軍長官は夏季休暇に帰る田舎の……、じゃなくて、ヤダぜェ~。俺はタローとシャルに絵本を読み聞かせてもらいに来たんだからなァ~」
「ん? おれ?」
戦意喪失のリューオに代わって受け応えたユリスの言葉に、ガドが俺の話をしたのが聞こえた。
それでつい、ぼへあ~っとした間抜けな顔で首を傾げてしまう。
ドン、とテーブルにボトルを置く。
ガド登場で間があったから、最後の一本も飲んでやろうと思ってな。
むへへ。美味しかった。
「おっ。シャァルゥ~」
首を傾げた俺に気づいたガドは、長い尻尾をブォンとスウィングさせて、ウキウキと俺の元へ近づいてくる。
それが俺は嬉しくて、にへらっと笑みを浮かべ椅子から立ち上がって迎える姿勢を取った。
──あれ、ユリスがなぜか全力で、首を横に振っている気がする……。
リューオは目をそらしているし、タローは巻かれたまま卵を思い出したのか、ゆらゆらしていた。かわいい。
しかしどれも、背を向けているガドに見えないのが残念だな。
「がど、おれにあいにきたのか? うれしい、おいで」
「お? ゴキゲンだな。俺も嬉しいぜェ~。あんなァ? 後でアホほど絵本持って魔お、」
──グイッ。
「ンっ?」
「ん」
うん。
もちろん、ガドにもチュ、とキスをした。
両手を広げる俺の前になにか言いかけながらやってきたガドを、問答無用で捕まえてだな。
首に腕を回し、それはもう当たり前にキスをした。仲間はずれは良くないからな。
目をパチパチと瞬かせ、抵抗もせず俺を見るガド。
その目は〝なにが起こっているのかわからない〟と雄弁に語る。
「ぅむ、がど、かわいい。すき、ふ……」
防御力の高いガドだが、唇は柔らかだった。
ふんだ。ユリスとリューオは俺に意地悪をするので、もうキスをしてあげない。嘘だ。
ガドが硬化しているのをいいことに、チュウチュウと容赦なく好意を伝える。
──んー……、んん……?
ガドの向こうでリューオが目をそらしたまま、壊れたように首を振るユリスと、似非卵のタローを担ぎ上げ、窓に向かって走り出している気がするなぁ……。
はてはて。
リューオたちはいったい、なにから逃げだしているんだろう。
そしてガドはどうして目線を俺の後ろに移動させて以来、拳銃突きつけられた犯人のように、両手をあげているんだろう。
「はっ、……? がど、おれはこっちだ。みて」
よくわからない現象が続いて、みんな俺から逃げていくのが気に食わない。
俺は唇を離して、ガドをじっと上目遣いに見つめる。
「………………。その、なんだ……俺も逃げていいか?」
しかし彼は目線を俺に向けないままだ。
珍しく間延びしない真剣な口調で、冷や汗を流しながら声を震わせる。
その質問は、俺の後方にあるだろう出入りの扉あたりへ向けられているようで──
「闇、永久深淵夜」
──そして質問の返答は、静かな魔法。
俺の最も愛しい声による、魔法の気配がゼロに近しくなるぐらい洗練と練り上げられた、温度のない詠唱だった。
ガドから手を離して、そっと振り向く。
(んんん……? あぁ……確かその魔法は、お前のとっておきの固有深淵魔法じゃなかったか?)
「あぜる」
影は扉の前から軽々しく最終奥義とも言える魔法を手のひらに弄びながら、ゾンビのようにゆっくりと歩いてくる。
それはまさしく、魔王で俺の旦那さんである──アゼルだった。
43
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる