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十二皿目 卵太郎、改め

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 ぎゅうぎゅうきゃーきゃーとやっていると、アゼルが枕に顔を埋めて暴れ始めた。

 俺とタローはそれを見て、大笑いをする。

「あはは、冗談だ。ほら、アゼルもぎゅーをしようなー」
「ンッ!?」
『あはは~まおちゃんぎゅー』
「ぎゅー」
「…………」
「『ぐぇぇぇ』」

 うん。魔王のぎゅーは強かった。

 黙って俺たちを抱きしめるアゼルに、俺は中身が出そうになった。

 タローも翼をバタつかせて、表面の若草をいくらか散らしている。もはや攻撃だ。

 それから脱出してタローに片付けを言いつけると、タローは元の形を覚えていないなりに、木箱の中に積み木を並べていった。

 順番は元のとは違うが、四苦八苦するうちうまくおさめられたようだ。

 俺はその間に先にアゼルの横に寝そべり、それを一緒に見守る。

「見ろよ、シャル。もう一人で片付けもできるんだぜ。やっぱりタローは天才じゃねぇか?」
「奇遇だな、アゼル。俺も今そう思っていたところだ」

 お互いに神妙な顔で頷き合う。

 つい昨日までは卵だったのに、タローの成長には目を見張るものがあった。赤子ではなく幼児だが。

『できたよ! 私、つみきすき~。さいしょーさんにもういっかい、ありがとうしないとだめだね~、しゃる、いってたもんね!』
「積み木が気に入ったから、ライゼンに改めてお礼をすると言ってやがる。見上げた気遣い精神だ。流石光属性、お前の英才教育のたまものだな」
「いいや、俺は今朝ライゼンさんに積み木を貰った時に、誰かになにかを貰ったら、その気持ちにきちんと感謝してお礼をするんだと言っただけだ。更に自分がしたいからそうすると決めるのは、タローが心のきれいな子だからだ。俺は鼻が高い。あとかわいい」
「あぁ、最高に悪くねぇ娘だぜ。あとかわいい」
「かわいい。……タロー、おいで。おやすみの時間だよ」
『! うひょぅ~!』
「うぐっ」

 積み木を本棚の空きスペースにしまったタローが、俺の上にジャンプしてバフンッ! と飛び乗ってきた。

 それを中身が出そうになりながら、俺は受け止める。

 ははは、愛いやつめ。
 アゼルの英才教育か?

「タロー! 翼があるなら羽ばたいてそっと乗れ! シャルの身が出るじゃねぇか!」
「んん、お前が言うのかアゼル一号……」
「おい待て二号ってまさか」
『おろしてまおちゃん~!』
「チッ、寝てろひよこめ」
『はぁい』

 俺の上に飛び乗ったタローを、アゼルがすぐに捕まえて、俺の隣にぽいっと投げた。

 やんちゃ盛りの子どもは暴走兵器だからな。カニのようにツルッと身が出ると困る。

「さぁ存分に睡眠を摂れよ」
「寝る子は育つぞ」
『ねんね~』

 アゼル、俺、タローの順で三人仲良く横になっても、大きなベッドは余裕があった。

 ちょっと下敷きになっている翼が邪魔だが、仰向けのタローに痛くないのかと聞くと、痛くないらしい。

 ふふふ、これは川の字というやつだ。
 親子が並んで眠ると、大きさが漢字の川になる。

 俺も早くに亡くした両親と、昔はこうして眠ったものだ。懐かしくて笑ってしまう。

 アゼルが手を振って、明かりを消した。

 タローはそれにピィピィと鳴いておそらく「どうやって消したの?」と興味津々。
 それはまた明日教えてあげような。

 暗くなった室内には、ベッド上の大きな窓から魔界の明るい月明かりが降り注ぎ、ふたりの姿がよく見えた。

 タローは俺にピタリと寄り添って、それを見たアゼルが対抗するように俺を抱きしめる。

 初夏も更けているので少し暑い。
 これが幸せの熱かな。



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