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十二皿目 卵太郎、改め
05
しおりを挟むさっきから思っていたんだが……この二人は、どうやら会話が成り立っているようだ。
「アゼルはこの子の言葉がわかるのか?」
「あぁ? まぁな。魔物語は魔族みんなの初期能力だから、言葉は話せなくても意思は伝わる。タローのはちょっと違うみてぇだが、意思を乗せて鳴くだけだから、まぁわかるぜ」
「ぴぃ~」
「また人外チートオチか。世の中のお母さんが泣くぞ」
当然の顔をして俺を見るアゼルと、アゼルの真似をしてキリッとしながら俺を見る少女。
世間のお母さんが言葉を話さずただ泣くだけの赤ん坊に、どれほど「なぜ泣いているのか教えてくれ」と土下座したくなっているのか、魔族は知らないんだろうな。
取り敢えず言葉の問題はそれで解決した。
おいおいだが、アゼルにテレパシーで翻訳して、一般言語も教えてもらえばいいんだ。
……ちょっと俺もお話してみたい。
魔物語、人間はハブられる運命らしい。
ゴホン。とにかく名前だ。
少女は自分の名前をタローでいいと言っているらしいが、流石にタローはだめだと思う。
女の子らしい名前をつけてあげたくて、やっぱり違う名前を考えることにした。
成長の早い少女は、卵として生まれてどれくらいかはわからない。
けれど魔王城ですごした三ヶ月で、言葉を聞き取るだけは、聞き取れるようだ。
なので俺にはピィピィと鳴いているだけに聞こえても、その返事の翻訳をアゼルに任せるとなんともスムーズだった。
これぞ育児。
共同作業だな。
「女の子なら、俺はたまこかな。どう思う?」
『あのね、私、外のおときこえてたから、しってるよ。たまご、私のおうちのなまえだよー』
「卵みてぇだって言ってるぜ」
真剣に考えているがセンスがないので、少女に笑われてしまった。
マルオの名前をつけたのが俺だということを考えると、それも必然だと思う。
「そうか……アゼルはなにか、いいのはあるか?」
俺に名付けは向いていないと考えアゼルに振ってみると、彼は途端に苦虫噛みつぶしたような顔になった。
「ぐっ……俺は生き物に名前なんかつけたことあんの、ガドぐらいだぞ」
『がどー』
「そうなのか。いいじゃないか、ガードヴァイン。かっこいい」
『かっこいい~?』
「! 俺の名前はどうだ?」
「ん? かっこいいな」
『な~かっこいい!』
かっこいいとアゼルに笑い掛ける。
俺を真似て笑顔でピィピィ鳴く少女が、足をバタつかせながらアゼルの服を引いて、機嫌良さそうにした。
そしてこののほほんコンボが決まったアゼルは、黙って目頭を押さえて震え始める。
ふふふ。やはりさしものアゼルと言えども、幼気な愛らしい少女には癒やされざるを得ないというわけか。
かわいいは正義だ。無敵である。
俺はアゼルが人らしく……、と言えばおかしいが、魔王モードでも人見知りモードでもないのも、なんだかかわいらしく思う。
少し素っ気ないが無愛想でもなく、自然体で少女と並んでいるのが嬉しくて、二倍胸がポカポカしていた。
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