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閑話 男気番長は甘やかしたい
02
しおりを挟む思わずガウと吠えたアゼルを軽くなで、シャルは数度瞬きをして眠気を散らす。
その睡眠欲を打ち消す技術はなんなんだ。
あれか、シャチクという現代職の名残か。
夜に強い種族であるアゼルは、ちっとも眠たくない。
しかしシャルはアゼルをなでつつ、子守唄を歌い始めた。
「ちっちゃなころから悪ガキで~、十五で不良と呼ばれたよ~」
「!?」
「ナ~イフみたいに尖っては~、さ~わるものみな、んっん、傷つけた~」
傷つけた、の前にリズムよく背中をトントンと叩かれ、落ち着いた低めのテノールボイスが奇っ怪な歌詞を奏でる。
アゼルは目を丸くして、待ったをかけざるを得なかった。
俺の知ってる子守唄じゃねぇぞ。
キョトンとするシャルに物申し、この歌の謎を明かしてもらわなければ。
「おっお前十五でグレてたのか……っ? 十五ってお前、幼児じゃねぇか」
「十五歳は人間なら今のアゼルくらいだが……じゃなくて。そういう歌詞なんだ。俺のいた世界で子守唄と言えば、取り敢えず喉鳴らしにこれを歌うのが定番とされていた」
「定番ソングがナイフなのか? お前のいた世界の人間やべぇな……。ナイフみたいに尖るって、どうやってんだ?」
「んん、それは俺もよくわからないが……、あぁ、そうだ。髪の毛がな、ツンツクしている人たちがいたぞ。あれを基本みんな〝盛る〟と言っていた。ナイフみたいとは、盛り髪のことだ」
「ツンツク、盛り髪……ってことはあれか、アホ勇者は十五から尖ってんだな」
「そうか……リューオの髪は触ると刺さるのか……」
疑問をぶつけると自分なりに答えてくれたシャルは、神妙に頷いた。
この子守唄はリューオのテーマソングだったようだ。
シャルはチェックーズという人間たちが歌っていたと、教えてくれた。
全員勇者だったのかもしれない。異世界やべぇな。
さらに続けると、喉鳴らしが終われば普通は「坊や~よいこだねんねしな~」やら、「ねんね~んころりよ~おころりよ~」と歌うらしい。
知らないことを知るのは楽しくてほうほうと聞いた。……いや、そうじゃない。眠いわけでは断じてないのだ。
加速する勘違いに、我に返る。
あやうくシャルののんびりペースに絆されるところだった。
アゼルは子守唄の話を切り上げて、シャルの胸元に額を当てた。
更に腕を回し、彼の体を抱きしめる。
「ふふ、くすぐったいぞ」
しかし抱きしめるというより抱きついているように思ったのか、シャルは胸元で擦れるアゼルの髪をこそばがるだけで、シグナルを受け取った様子がない。
素直に抱きたいと言えばいいのだが、わかりやすく口にするのは避けたがる性質なのだ。
普段なら、最終手段を使い吸血の催淫毒でその気になってもらってもいいと思う。
しかし今日、疲れているところに貧血を足すのはよくない。
よくないが、己の欲望は我慢できない。
アゼルは悩んだ結果、無言でシャルの足に自分の足を絡ませ、枕と首の隙間に手を押し込み、彼の首に両腕を引っ掛けた。
そしてそのままぐっと身体を捻り、隣で横になっていたシャルを自分の上に覆いかぶさる形にさせる。
「っと」
「……、眠くはねぇ、俺は。体力はあるし、中身はいつもの俺なんだぜ。お、大人の! 俺だ」
「ん? わかっているとも。大人だな」
「なぁ現在進行系だぞ」
アゼルを押し倒しているような形にさせたというのに、呑気に頷きながらポンポンと頭をなでられ、クワッと睨みつけた。
だめだ。
こちとら頭ポンポンでムラムラする立派な男だというのに、シャルはおませな子どもに微笑ましくなっている。
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