上 下
608 / 901
十一皿目 魔界立ディードル魔法学園

44

しおりを挟む


 アゼルは俺の言葉に返事を返そうとしているが、なぜか言葉にならないようだ。

 絞り出すような奇声をあげて、ひたすらに俺の腰を抱きしめる。

 おかげで中身がでそうだが、それに気づくと返事のような声をだして緩めてくれた。

 緩めてくれたが、額をスリスリと擦り付けて耳まで真っ赤だ。

 なるほど。
 俺が膝に座っているから身悶えられないだけで、いつもの発作を起こしているんだな。

 合点がいった俺だが、質問には答えてほしい。

 俺は寂しがらせてしまったしお詫びと、それから姑息な女子力アピールで、お弁当を作ってきた。

 絶対にないのだが、それでも愛想を尽かされ人魚さんに乗り換えられると嫌だ。

 俺はずるいのだろうか。

「だから……、アゼルが、俺以外の人の血を吸うのは、……ちょっと、嫌だな」
「あぅぁぁ……ッ!」

 いつも通りの姿であるアゼルの頭をなでて、俺もぎゅっと抱きつく。

 余計奇声を上げ始めたが、大丈夫か?
 嫌がってはいないのか?

 俺はアゼルの耳の後ろを指先で掠め、つまむ。いじけた子どものような仕草だ。

 子どもっぽくて嫌になるのも、俺はいつだってお前を縛らず、自由に生きてほしいから。

 それも普段からてんでできてない。
 アゼルの前では俺だってクソガキ、なのだ。

「血を飲むこと自体はいいんだが、直には……うぅん。お前の獲物は俺だけがいいなんて、わがままか?」
「うひぃわがままがとうとい……っ、ごほうび……わがままちがう……せんせいしてたのにおれにだけあまえるのかわいいぃぃぃ……っ」
「唸っているがアゼル、ちゃんと聞いてくれてないな? わかった。ならちゃんとわかりやすく言うぞ」
「きいてるからこうなってんだばかがぁぁぁ……っ」

 ブツブツと小声で唸るだけで、アゼルは俺の言葉に明確な反応をしてくれない。

 やっぱり、アゼルにはわかり易く言わないとダメか。
 そもそも話を聞いていないんだから、聞いてくれるようにしないといけないぞ。

 よし、と気合をいれ、俺はアゼルの頬を掴んでぐっと自分の顔に向かって引き寄せた。

 それから耳元に唇を寄せ、いつも強請る時のように声をだす。

 いつもというか、夜にだが。
 夜のオネダリ成功率は高いから、それを使うことにしたのである。


「俺の血、全部あげるから、頼む……お前の毒に犯されるのは、俺の役目だ。──誰にも譲りたくない」
「───~~~っ!?」


 自分なりの〝吸血行為は俺限定〟を言ったつもりだ。

 しかしアゼルは湯気が出そうなほど茹だったかと思うと、そのままフリーズしてしばらく帰ってこなかった。

 いざ帰ってきた後は、即行動で俺の血をたくさん飲んでくれたぞ。嬉しいけれど困る。

 まあ、休憩時間は超過する羽目になったことをお伝えしよう。詳しくは言えない。

 ──これは余談。

 ライゼンさんが帰ってこなくて良かったと思った俺が、この魔王執務室は扉部分が薄くて外に音声ダダ漏れだったことに気付くんだが。

 それは散々理性の飛んだ鳴き声を散々披露してからだった、というのも、付け足しておく。

 職業・お菓子屋さん兼魔王の妃。
 わがまま一つ言うのも、大変なのだ。


 十一皿目 完食



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

処理中です...