本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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十一皿目 魔界立ディードル魔法学園

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 うおおぉぉ! と叫びながら人気のない開けた場所まで走っていくクテシアスを、首を傾げて見送る。

 恐らくポカンとしているウィニアルトが、なにか言ったんだろうな。
 あんなにもわかりやすいのに、どうしてウィニアルトは気がつかないんだろう。

 俺が走り去るクテシアスを眺めていると、視線を他に向けるのを嫌がるアゼルが、黙って繋いだ手を強く握る。

 それを握り返して、完成までの態度の評価をするために歩き出した。

「大丈夫。クテシアスはたぶん、ウィニアルトになにか言われただけだろう。ウィニアルトは少し鈍くて天然さんなんだ」
「それをお前が言うのかオイ」
「うん?」

 腑に落ちない様子のアゼルとのんびりと話しながらテスト採点をする、麗らかな午後だ。

「……お前あれだろ、若い男が好きなんだろうが。知ってるんだぜ。ふん」
「それだと俺がただの変態だぞ」

 俺はアゼルが逆の手で持ってくれている評価用紙を挟んだバインダーに、メモとチェックを入れる。

 ディートバックは古代文字を間違えている。気付くだろうか。後でもう一度見よう。

 それからボナモートは魔力を均一に出せていないから、形が少し歪んでいる。
 んん、書き直したほうがいい。

 ゆっくりと会場を歩いていくと、アゼルは見落としがあれば手を引いてくれる。
 書きやすいようにバインダーをうまく動かしてもくれる。

 うん、やはり二人で仕事をするとなんでも早くなるな。
 そういう特性ができたのかもしれない。

 握った手がいつもより細くて小さいのも新鮮で、俺より下にある頭がフサフサ揺れるのがかわいかった。

「ふんっ、どうせ俺はもうそろそろ二百歳だばーか。でもまだ水は弾くし、肌も弛んでもねぇ! それに今の俺なんてどうだ? ピチピチの六十歳ぐらいには見えんじゃねぇか? いやもっと下だな。三十か四十だぜ? お前と同い年ぐらいじゃねぇのか?」
「十歳以上離れた同い年とは」
「なんだよ、同年代じゃねぇか」
「振り幅広すぎるだろう」

 寿命の長い魔族において、プラスマイナス十歳は同年代らしい。

 人間で十歳変わればカラオケで歌う曲目にそれなりの差が出るのだが、魔族なら同じクラスもザラなのか。なんてことだ。

 心持ち誇らしげなアゼルは、なぜか俺が若いほうが好きだと誤解している。

 なので変装がてら若くなった自分をこれでもっと好きになるだろうとばかりに、そわそわしていた。誤解だ。

「若いアゼルはかわいいが、元のアゼルもかわいいぞ。お前がお前なら俺は変わりなく愛している」
「んぐぅ……ッ」
「……と言ってもこれだけじゃあ信憑性ないだろうから、熱く語ろうか?」
「俺を殺す気か?」
「ん?」

 サクサクとみんなの様子を確認しながらチェックを入れつつアゼルの頭を合間にワシャ、となでる。
 いや、小さいからなでやすいんだ。

 そうすると真顔で睨みつけられた。
 髪の合間から鋭い目つきで俺を射抜く。

 射抜くんだが、俺の目に映る全てのアゼルの肌が仄かに赤いので迫力がない。
 魔眼も発動してないから、全く本気の眼光ではない。

 ちなみにこのやりとりをしながらも、俺の手は止まっていないぞ。

 メモも取っているし、ディートバックの様子をもう一度見に来たら間違っていた古代文字は修正されていた。うん、いいこだ。



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